学生時代のヤンキー気質がいまだに抜けず、乱暴な言動で新人を追い詰める30代半ばのトンデモ社員。そのせいで職場の空気が悪くなり、社員の離職が止まらない。元ヤンキーが起こすパワハラにどう対峙すればいいのだろうか?(特定社会保険労務士 石川弘子)

 F田は学生時代ヤンキーで、現在はI不動産の営業として働いている。売り上げの成績は常にトップで、お客様の評判も悪くない。しかし、社内では乱暴な言動と、過去の自慢話(?)で煙たがられ、同僚はうんざりしている。後輩に対しても、パワハラとも取れる言動で何人もの新人を退職に追い込んできた。会社もそんなF田を持て余していたところに、事件は起きた。

 本題に入っていく前に、まずはI不動産の概要と登場人物を簡単にお伝えしよう。

I不動産 概要
 創業16年の不動産会社。投資物件の販売と賃貸管理を行っている。従業員は、契約社員やバイトの事務も含めて20名程度だが、今後は規模拡大を目指している。
登場人物
M本:I不動産会社の部長。33歳男性。真面目で仕事熱心。F田の中学校の後輩。
F田:高校中退後、職を転々とし、現在はI不動産の営業社員。学生時代はヤンキーで、いまだにその気質が抜けない。M本の中学校の1学年上の先輩。
K川:3ヵ月前にI不動産に入社してきた契約社員。24歳男性。大学卒業後、フリーターをしていたが、I不動産で正社員を目指して頑張っている。
● ヤンキー気質の抜けない痛い社員 F田のせいで新人が定着せず

 「つーか、酒も飲めないで営業やってるってどういうこと?お前、本当に使えねーな。酒なんて鍛えて強くなんだよ。俺なんて、昨日も客と飲んで、ボトル3本空けたから」

 居酒屋の宴会場でF田の声が響き渡った。今日はI不動産の決算慰労会で、従業員全員が参加していた。そんな中、F田は、後輩のK川が酒が飲めないと知って、しつこく絡んでいたのだ。

 F田は、これまでにも新入社員に対して、「営業成績が良くない」と言っては「ヤル気あんのか?」などと大声で恫喝したり、「それじゃ給料泥棒だよな」と嫌味を言ったりしていた。また、新人をしつこく飲みに誘って断られると「先輩の誘いを断るなんて、いい根性してるよな!」と言ったり、自分の思い通りに動かない後輩に対してイライラすると椅子を蹴ったり、机を叩いたりといった行為もあった。そうした事情のためにI不動産では新人の離職率が高く、規模をなかなか拡大できずにいた。

 会社としても新人が離職してしまうのはF田が原因ということは分かっていたが、F田に注意しようとすると、「気に入らないなら、クビにしたらどうですか?」と開き直る始末。F田は問題社員ではあるものの、トップセールスマンなので、上司であるM本もなかなかきつく言えずにいた。

 さらに、M本はF田の中学時代の後輩ということもあり、F田に対して遠慮がちだ。しかし、F田の言動で社員がすぐに辞めてしまうことから、「何とかしなければ……」とM本も頭を抱えていた。

● 外出先で起こった 暴力事件!

 ある日、事務所で書類を整理していたM本に、F田と営業に出ているはずのK川から電話が入った。

 「先ほどF田さんが、僕の営業先でのトークがなってないって、グチャグチャ言ってきたので、少し言い返したんです。そうしたら激昂して、僕のみぞおちのあたりと顔を殴ってきたんです」

 I不動産で社員が後輩を殴ったなどという話は前代未聞だ。M本はF田が戻ってくると、すぐに呼び出して事情を聞いた。

 「F田さん、K川さんを殴ったって本当ですか?」

 「は?別に殴っていませんよ。自分が仕事できないくせに口答えするから、注意しただけだ」と、F田はしらばっくれている。M本がしつこく追及すると、中学の後輩であるM本に対して、「お前いちいちうるせーんだよ。あんまりグチャグチャいうと、ぶん殴るぞ!」などと、脅してくる始末だ。

 

 結局、現場を見た人もおらず、K川も「あまり大ごとにしたくない」と言ったので、うやむやになってしまった。

 その後、F田のK川への言動はエスカレートし、M本や他の人が見ていない所で、「チクリやがって」と嫌味を言ったり、頭をはたいたり、身体を小突いたりするようになった。K川も退職が脳裏をよぎりながらも、「正社員になるために頑張って耐えないと……」と思っていたのだが、精神的にも追い詰められていくうちに、元気がなくなっていった。

● F田とついに 会議で激突!

 K川が追い詰められていく様子を見ていたM本も心配するようになり、積極的に声を掛け、できるだけ話を聞くようにした。F田に注意しても、「そんなことしてない」とシラを切り話にならない。

 ついにK川から「もう耐えられないので、退職したい」と言われたM本は、「このまま新人がすぐに退職する状態が続けば、組織が崩壊してしまう」と思い、F田を辞めさせるべく行動を起こした。

 まずはパワハラの証拠が必要だと考えたM本は、F田のパワハラの言動をK川にボイスレコーダーで録ってもらった。F田の言動はますますエスカレートしていたので、証拠は簡単に押さえることができた。他にもF田から受けた暴言や暴行を全てK川に記録してもらうように頼んだ。

 そして2週間ほど経った会議の場。M本は社員の営業成績を発表した後、皆の前でF田に声を掛けた。

 「F田さん、先月もトップでしたね。おめでとうございます」

 「いや、いつものことだし……。他の営業があんまり使えねーから、毎月俺の一人勝ちだよな。こんな環境じゃ、俺も面白くないわ」とF田は満足気に笑っている。

 「それなら良かったです。F田さん、今日限りで辞めてもらいます。どうぞ、もっとやりがいのある新しい会社で頑張ってください」

 F田は、突然の「クビ」宣告に驚いて、目を丸くしている。

 「は?何言ってんの?何でだよ?」

 M本は、怒りで興奮しているF田に対し、F田のK川に対するパワハラについて、就業規則に則り解雇するのだと淡々と説明した。さらにM本は付け加えた。

 

 「ついでにお話ししておきますが、弁護士事務所からもうすぐ手紙が届くと思います。K川さんから『F田さんのパワハラや暴行について弁護士に相談した』と報告がありました。こちらは証拠もあるので、F田さん、恐らく勝ち目はないと思いますよ」

 F田は怒鳴り散らし、「M本、お前地元歩けなくしてやるからな!」と胸ぐらを掴んだ。すかさずM本が返す。

 「F田さん、今の言葉、録音してますよ。防犯カメラにも今の様子が映ってるから、脅迫として警察に届け出ることもできるんですよ。このまますんなり退職してもらえるなら、僕も揉めたくないので何も言いません」

 F田は、しばらくじっとM本の胸ぐらを掴んだまま睨みつけていたが、乱暴に手を放すと、そのまま出て行った。その後、F田が会社に現れることはなく、連絡もなかった。K川は、F田が退職したことに満足したため、結局、弁護士に依頼しないことにした。

 売り上げトップだったF田が辞め、売り上げは落ちるものと思われたが、K川をはじめ、他の営業マンもイキイキと働き始めた。一時的に売り上げが落ちたものの、会社の年間売上高は前年比110%増を達成したのである。

● パワハラを受けたら どう対策をすればいいか?

 本事例のように、社労士のところにパワハラに関する相談は少なくない。パワハラ被害を受けている社員(派遣、契約、パート含む)の中には、社内の規律や秩序を乱したなどの報復を恐れて周りに相談できず、一人で悩んでいる方も少なくない。結果、追い詰められてメンタル不調に陥る人もいれば、退職していく人もいる。これでは本当の理由がわからず、会社にとって戦力となるであろう優秀な社員を失っているのだ。

 仕事は組織で行うものだ。いくら成績優秀なエースが部署にいても、メンバー全員が能力を発揮できなければ、組織は伸びていかない。そこにパワハラが起こるようになると、周囲の空気が悪くなり、パワハラを受けた社員、その社員と同じ部署のメンバーまでも委縮させ、組織崩壊を招いてしまうのだ。K川の場合は、早い段階でM本に相談できたことが非常に大きかったといえるだろう。

 最後に、相談できる窓口がない職場も踏まえてパワハラ対策をお伝えしたい。

 パワハラを受けた際は、その言動をICレコーダーやボイスレコーダーなどで証拠を残す、記録しておくことがとても重要だ。なぜなら会社は中立性の立場から、一方の証言だけを信用しても事実誤認の可能性もあるため処分の決定を出すわけにもいかず、事実を証明する重要な証拠や記録があると対応が非常にスムーズになるからだ。

 パワハラの事例は枚挙にいとまがない。本事例等を含めて参考にしながら、お勤めの会社で皆さんがイキイキと働ける環境づくりを目指してほしいと思う。

 ※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。

石川弘子

 


引用元

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170829-00140007-diamond-bus_all&p=3

 

 

 

 

 

 

 

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