ある時 思いつきでゆっくりと呼吸をしてみた

お腹の部分が大きく膨張して 収縮した

こんな当たり前の動作を発見して

僕は誰かにこの発見を伝えたくなった


パソコンのキーボードで言葉を紡ぐ

今 この場で起きたリアルの出来事を

電子記号を通して画面に入力する

僕の気持ちは日本語に変換され

文章としての体裁を整えられる

これもまた 新しい発見ではないだろうか


生きることは発見の連続で

音楽を聴くという習慣一つにしても

”ヘッドホンのプラグをプレイヤーに差し込む”

という動作の後に行われるという事実を知る


一度認識されたものが常識として認知され

それが当たり前の事として意識されなくなる


食物を調理し それを食すという行為

生物を殺害し 切り刻む後の行為であるということ

本を購入し 小説を読むという行為

森林を伐採し それを加工して本にするということ


人間は毎日感覚を麻痺させることで日常を過ごす

蓄積された記憶を整理整頓し いらないものを忘れる

忘れ去られた記憶は明確な姿を失い消える

もしくは 補助記憶装置へ圧縮されて埋もれる

外部からのなんらかの刺激を受けることで記憶は解凍され

脳の中で再構築されて本来の記憶としての姿を取り戻す

取り戻された記憶が脳の器官を刺激し衝動を起こす


そうか この文章は記憶の再構築なんだ

機械的に行われた動作の末の行動なんだ

またひとつ賢くなった気がする


この文章を書いたという記憶は

いつか補助記憶装置に圧縮されて

本来の姿を失うのだろう

そして 何らかの刺激を受けることで

再構築されて改めて認識されるのであろう


今 こうして文章として外部に記憶しておくことで

読者に僕のリアルを伝え

同時に未来の僕に教えるんだ

言葉を紡ぐことの意味を

そうすることの素晴らしさを

傾きかけた太陽を眺めながらカフェ

カプチーノの泡に優しく口付け


落ち着いた雰囲気の店内は

あの時 君と向かい合った

ファーストフードの店内を思い出す


不規則に伸びる煙は

貴方の吸っていたメンソールの煙草

去り行く夏の姿を 窓の外の景色に探す



行き先も決めないで歩いた池袋の街

鮮やかなネオンの色は 魅惑の銀河

カラオケボックスで歌った貴方の歌を

僕はすっかり思い出せなくなってしまった



空にぼんやりと浮かぶ月はすでに

丸い姿を崩し始めています

夏の夜の星の海は

鈴虫の音色で彼方へ消えゆく


もう 半袖を着ることは少なくなりそうです

くたびれたTシャツの奥には

貴方の面影すら 洗濯機の沼の底



今日 秋刀魚を食べました

一匹100円の秋刀魚の味は

成し得なかったキスの味でしょうか



泡の消えたカプチーノの苦さは

秋の季節の侘びしさを感じさせるようで

夜の闇へと僕を導いてゆくみたいです

横浜の祖父母宅で旅行用鞄を借りる

お土産などと一緒に電車に乗り込む

旅行鞄(キャスター付)を足元におみやげを膝上に

快速電車の座席に座り音楽を聴きながら本を読む


重松清の『その日のまえに』に胸を熱くしていると

東京付近で満員電車へと早替わり

荷物を持ったおばちゃんが冷たい目で僕を見る

心の中にもやもやを抱きながら列車は走る



人は皆平等だというけれど そんなのは嘘っぱちだ

そんな言葉を誰かから聞いた気がする


平等なら乗客全員に座席が用意されるはずだし

各駅停車と快速電車に区別されないはずだ

老人に席を譲るべきだという考えも平等ではないし

女性専用車両も女尊男卑という不平等だ


荷物を持ったおばちゃんの軽蔑の目

多くの荷物を持った僕が腰掛けた座席

どちらが正解で どちらが不正解?



岐路の途中で目にした交通渋滞

二車線右車線右寄りに故障車

二車線左車線左寄りに救出車

二車線中央ギリギリを通る通行車

ちょっとした心がけで避けられる渋滞


行き場のない想いを性欲に押し付ける

大人だけの魅惑の世界へようこそ

R18世代に許されないパラダイス

そんな世界は皆不平等