「創造性あふれる日本」が与えた衝撃 | 同じ空の下で ~ To you who do not yet look ~

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まだ見ぬあなたへ。僕らは、同じ空の下にいながらも、それぞれの感じ方で生きている。
「偶然は必然」というように、僕らを直接結びつけるものはなくても、意図しない形で、思いもよらない所で、あなたと私がきっかけひとつで繋がったことに感謝☆


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(以下、スポーツナビより)


2014年ブラジルワールドカップ(W杯)予選のベルギーは強かった。

彼らはクロアチア、セルビアといった強国の入ったグループAを

8勝2分けと無敗で勝ち抜いて本大会出場を決めた。

02年のW杯以来、ユーロ(欧州選手権)も含めて

本当に久しぶりのビッグイベントへの出場決定に国民も沸いた。

07年には71位だったFIFA(国際サッカー連盟)ランキングも5位(11月20に現在)まで上がり、

12月に行われるグループリーグ組分け抽選会の第1ポット入りを果たした。

選手たちもイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、というビッグリーグでプレーする

スターぞろいとあって、ベルギーでは代表チームに対するブームが起こっていた。


しかし、11月に入ってから、そのスター軍団はホームでコロンビア、日本に連敗を喫してしまった。


「僕は日本の方がコロンビアより強かったと思う。コロンビアはFIFAランキング4位。

そのことが日本のレベルの高さを示している」(ダニエル・ファン・ブイテン)


左サイドバックのヤン・フェルトンゲンは日本に敗れたことを

チームに対する“ウェイクアップ・コール”と捉えた。


「日本のサッカーがとても良く、ベルギーにとっては厳しい試合になった。

周囲はベルギーのことを『W杯でも主役になれるのでは』と言っていたが、

今日の試合は目を覚ます機会になった。

僕はあまり日本のサッカーのことを知らなかったけど、予想以上に良くて驚いた」


ベルギー代表の次戦は3月のコートジボワール戦と、だいぶ先のことになる。

過熱する期待をいったん冷ますには良いタイミングだったのかもしれない。


現地紙は軒並み高評価


スポーツ専門ウェブサイトの『スポルツァ』が「創造性にあふれる日本がベルギーを倒す。

本田圭佑とその仲間たちはショート・コンビネーションのサッカーで

“赤い悪魔”(ベルギー代表の愛称)を痛めつけた」と報じた通り、

ショートパスを主軸とする日本のコンビネーションサッカーは、ベルギー人に深い印象を残した。


『スド・プレス』紙のバン・インプ・クリストフ記者はベルギー対日本の感想をこう語っている。


「ベルギーの布陣があまりに攻撃的すぎて、チームのバランスが悪かった。

しかし、日本も良かった。オランダ相手にも素晴らしいサッカーをしていたし、

香川(真司)、本田といった選手もいるから、今日の出来は予想の範囲内。

テクニカルでスピードがあって、とても良いチームだった」


『ヘット・ニーウスブラット』紙は本田と香川、

さらに後半から出場した遠藤保仁と岡崎(慎司)に採点で7を与えた。

ベルギーのケビン・ミララス、ケビン・デ・ブラウネも同じく7を受けた。



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隣国オランダからもこの試合をフォローするために記者がやって来た。

そのうちひとりがオランダ代表を追い始めて20年というエドウィン・ストラウス記者だ。

彼はオランダ戦、ベルギー戦と2試合続けて先制された日本が、

しっかり試合を作り直したことを誉め称えた。


「日本が初めてオランダと試合をしたのは2009年。

あの時の日本も素晴らしいサッカーをしたが、オランダに1点奪われるとずるずる失点を重ねて、

終わってみれば0-3で負けていた。しかし、今の日本は1点を失っても、

しっかり試合を立て直すことができる。それは自分たちに自信があるから。

パニックに陥ることなくボールを落ち着いてさばくことができる。

もちろん組み合わせにもよるけれど、W杯では準々決勝に進出する可能性だってある。

オランダ、イングランドより良い成績を収めるんじゃないか」


日本対オランダ戦が行われた翌日、11月18日のサッカートーク番組『ストゥディオ・フットバル』で

オランダ人のサッカー専門家が日本をとても好意的に捉えていた。

AZ(オランダ)やポルト(ポルトガル)といったチームを率いた指導者、コー・アドリアーンセは

「個々の選手を分析し、比べた場合、私は日本の方がオランダより勝っていたと思う。

後半に入って彼らはチームとして機能した。

日本はスピード、ボールの扱い方、テクニックといった点で、オランダを上回っていた。

オランダには何人かの飛び抜けた力を持った選手がいる。

例えば(アリエン・)ロッベン。もしかするとケビン・ストロートマンもそうだろう。

しかし、後半に入ると彼らにボールが渡らなかった」と語った。


ルート・フリットは日本とオランダの中盤の選手を比べ、

「試合中、目を見張ったのは、日本が中盤で相手のマークを背負っていても、

しっかりターンしていたこと。そこがオランダに欠けていたことじゃないか。

(ラファエル・)ファン・デル・ファールトはターンできていた。

(負傷で招集外の)ウェズレイ・スナイデルもできたんじゃないかと思う。

しかし、ストロートマンはボールをたたいてばかり。

一方、日本は酷いピッチの上でもハイテンポで簡単に

コンビネーションサッカーをやっていた」と解説した。


ベルギーが日本戦で学んだこと


アドリアーンセ氏は、日本の勇気を持ったサッカーに感銘していた。


「アルベルト・ザッケローニ監督はイタリア人。今、イタリアのサッカーはとても攻撃的になっている。

ルート(フリット)の時代と違って、チェーザレ・プランデッリ監督のイタリア代表が攻撃的に戦い、

アントニオ・コンテ監督がモダンで魅力的なサッカーをするユベントスを率いている。

私が思うに、ザッケローニ監督はビハインドを負ったことから、

後半、戦術を変えてプレスを前線からかけてきた。

こうした勇気のあるサッカーができるチームは世界でも限られている。

ドイツ、イタリア、バルセロナスタイルのスペインができるし、

われわれ(オランダ)もやれると思う。でも、そのぐらいだろう」


日本代表との試合をオランダ人もベルギー人も学びの場として捉えている。

ベルギーの『ヘット・ニーウスブラット』紙は「日本戦から、われわれは何を学んだか?」

という記事を掲載している。


「ベルギーは(まだ)トップの国ではない。

“赤い悪魔”は2013年を良い年だったとして記憶にとどめたいだろうが、

この1年を振り返るためには日本戦とコロンビア戦のDVDを

一番上のところに置いておかないといけない。

コロンビアからは個々の実力を学び、日本からは非常に良く動き、

コンビネーションサッカーをする能力が、良いチームを作ることを学んだ」


日本は他国から学び、自国に取り込もうとする意欲に富んだ国だ。

今回、ベルギーとオランダが、日本のサッカーから学ぼうとする姿勢を示したこともまた、

日本にとっては学びの機会となるだろう。



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(以下、スポルティーバより)


ザッケローニ監督がメンバーを入れ替えた今回の欧州遠征。

閉塞感が漂っていたチームにおいて、新鮮な顔ぶれが並んだことは好材料となったが、

違和感はあった。遠藤保仁の名前がスタメンになかったことだ。

それも、オランダ戦(2-2)、ベルギー戦(3-2)の両方で――。


オランダ戦の翌日、遠藤は別メニューの調整だったことからも、

怪我を抱えていたのは明らかだった。それは、オランダ戦で負ったものではなく、

所属するガンバ大阪でJ2リーグを戦う中で負傷し、

その怪我を抱えたまま今回の遠征に臨んだという。


10月の東欧遠征(0-2セルビア、0-1ベラルーシ)でも足首を傷めていたが、

このときは2試合とも先発した。だが今回は、試合間隔が中2日だったために

ローテーションが採用され、45分限定でのプレイになった。


興味深いのは、いずれも前半ではなく、後半からの出場だったことである。

どちらのゲームも遠藤の登場によって、攻撃のリズムや試合の流れが変わった。

オランダ戦のほうが変化は目に見えて明らかだったが、

ベルギー戦でも攻撃の形にすかさず修正が加えられた。遠藤は言う。


「前半、(ピッチの)外から見ていて、(日本の攻撃は)そんなにキツそうではなかったけど、

どこかでリズムを変えたいと思っていた。特に、ボランチはほとんどノープレッシャーだったのに、

前半は簡単なミスでカウンターを受けることが多かったから、それを極力なくそうと。

あと、外から見ていてボランチの位置が低いと思ったので、多少リスクを負ってでも、

自分が前に行けばチャンスになるんじゃないかと思っていた」


なるほど”ピッチの指揮官”とも呼ばれる遠藤だから、ベンチから戦況を読むのも的確だ。

修正ポイントを頭に叩き込み、後半のピッチに入った。


逆転ゴールが生まれたのは、まさに攻撃参加した遠藤のアシストからだった。

左サイドバックの酒井高徳とのワンツーから相手ペナルティーエリアの角まで侵入し、

素早く右足のアウトサイドで本田圭佑にパスを通してファインゴールを演出した。

普段は下がり目の位置で攻撃にリズムを作ることが多い遠藤だが、

高い位置なら高い位置なりのプレイがある――。そんなことを雄弁に物語るプレイだった。


また、遠藤がポジションを高くすることで、味方のセンターバックの前にスペースが生じた。

後半、森重真人や吉田麻也が積極的にボールを持ち出す機会が増えたのは、

遠藤のポジショニングと無関係ではないだろう。こうしてセンターバックがボールを運べば、

中盤に対する相手のマークがどんどんズレていく。

アップをしながら、その様子を見ていたDF今野泰幸は

「後ろからの組み立ては、ベルギーより日本の質のほうが高かった」と指摘する。


後半から遠藤を投入して流れを変える――。

もしかしたら、ザッケローニ監督はそれを狙ったのかもしれない。

だが、いずれの試合でも前半、遠藤が不在だったがゆえに

その存在の大きさを改めて感じさせる内容でもあった。

怪我が治れば、おそらく先発に返り咲くのではないだろうか。


一方、遠藤の冷静な目はピッチ内だけでなく、チームにも向けられている。


「(今年最後の試合を)いい形で締めくくれたのは良かったけれど、

この2試合だけで判断するのはよくない。まだまだ課題は多いからね。

それを克服するためにも、まずは(所属する)クラブに戻って、

個々が(自分の力を)どれだけ伸ばせるか。3月まで代表の活動はないので、

それまではそこに集中すればいいと思う。チームの課題については、

次に集まったとき、みんなで話し合いながら、強いチームにしていきたい。

今の状態が自分たちのピークだとは思わないけど、

いつ、リズムが崩れるかわからないのが代表チーム。

オランダ、ベルギーとの2試合である程度の手応えはつかめたとはいえ、

最低限この精度を保ちつつ、常に満足しないでレベルアップを図らなければいけない。

そして、3月から本番までの間にチームを仕上げていければいい」


遠藤にとってブラジル大会は3度目のW杯になる。

過去2大会の代表チームはいずれも紆余曲折の末、W杯本番を迎えている。


2006年ドイツ大会に挑んだジーコジャパンは、本大会直前にドイツと2-2の好ゲームを演じ、

チーム状態が上向いた。が、続くマルタ戦(1-0)は凡戦となり、

大会前の一喜一憂が本大会での惨敗の一因になった。


前回(2010年南アフリカ大会)の岡田ジャパンは、W杯イヤーに入って香港(3-0)にしか勝てず、

どん底の状態で開幕を迎えた。だが、初戦の勝利(カメルーンに1-0)で好転し、

ベスト16進出を果たした。


まさにチームは“生き物”だと身を持って経験しているからこそ、

この2試合の善戦で浮かれることの危うさ、あるいは、チーム作りの過程で

一喜一憂することの無意味さを説いているのだろう。


「すべての精度をまだまだ上げていかなければいけないし、

セットプレイの失点も多いので、もっと工夫して守らなければならない。

それに、今日のベルギーも決して100%の力ではないと思うし、

もし相手が日本の攻撃に対して(マンツーマンなどで)完全にハメてきたときにはどうするのか。

これも大きな課題だと思う。個人的にはその辺りをイメージしながら、

あえて(チームの)バランスを崩して、(相手のマークを外して)

スペースを空けるといったことにもトライしていきたいと思っている」


試合に勝とうが負けようが、常に冷静なスタンスで試合を振り返ることができる遠藤。

頭の中には、強豪と渡り合うために克服すべき課題がしっかりと刻まれている。

すべては、W杯で結果を出すためである。



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・「創造性あふれる日本」が与えた衝撃 ベルギーとオランダから届いた賞賛の声

・ベルギー戦勝利で浮かれる日本に、警笛を鳴らす遠藤保仁


それぞれのコラムには、そう題された記事が記されていた。

内容はもちろんだが、結果がほしい日本にとって、一定の満足を得た欧州遠征。


大胆なメンバーの入れ替わり、先制されても同点に追いつくスピリット、

相手を上回る動きを見せた後半、そして、ベルギー相手には、

「逃げ切る」という大人のフットボールを見せた。


欧州勢にとって、日本がよいチームだと認識していても、

ここまでやる、いや、やられるとは思っていなかっただろう。


失点の多さは気になるが、ひと昔前なら、

強豪相手に2点を取るイメージなどしにくかった。

ボールキープの質は格段に上がったと思うが、

まだまだ強弱、緩急と言ったリズムやテンポを変化させるまでには至っていない。

しかし、遠藤が前半ベンチに控えることによって、

そうした変化がもたらされるかもしれない。


そして何より、ベルギー戦では、磯貝、今野を投入して、

「逃げ切る」という意志をはっきりと示した。

それは「勝ち切ってこい」というメッセージだった。


W杯本番まで取って置きたかったと思う部分もあるが、

選手たちには、限りなく上位を目指して戦う気持ちがある訳で、

強豪の仲間入りを果たすためには、歩まねばならない王道がある。


日本を警戒して戦う相手にも、きっちり勝ち切るためには、

更なる勝利への飢餓感が重要になってくる。


そこを刺激できた欧州遠征になったのではないだろうか。

この飢餓感を、Jリーグの活性化につなげることができれば、

選手たちの欧州移籍だけでなく、各国の選手たちがJリーグを目指すような、

そんな好循環が生まれるのではないだろうか。