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ビックの部屋

5分読み切りの短編小説
甘酸っぱい恋の4コマ漫画
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私は鼻毛。佐藤家のお父さんの右の鼻の穴の、ちょうど入り口付近に根を下ろしている、漆黒で頑強な1本だ。仲間たちからは、その圧倒的な存在感と防衛力から「右のフロンティア・ガード」と呼ばれ、一目置かれている。


​私の鼻毛生(?)において、最高に誇らしく楽しい瞬間。それは何と言っても、外の世界から襲いかかってくる外敵(ゴミ)を、この身を挺して捕らえる瞬間だ。


お父さんが湘南の海岸線をサイクリングしている時、潮風に乗って細かい砂埃や、目に見えないほど小さなハウスダストが私の鼻の穴めがけて突っ込んでくる。


「総員、防御体制! 侵入を許すな!」


私はウェーブのかかった自慢の体をいっぱいに広げ、粘膜の粘液(鼻水)と協力して、それらのゴミをガッチリとキャッチする。私がここにいるおかげで、お父さんの清らかな肺に汚れた空気が入らずに済むのだ。大自然の驚異からお父さんの健康を最前線で守っているという全能感は、奥深くでぬくぬくと育っている奥の細毛たちには到底理解できない、フロンティア・ガードだけの特権である。


​しかし、過酷な最前線に立つものには、常に理不尽な悲哀と、身の毛もよだつ恐怖が隣り合わせだ。


​私が最も憎み、恐れているもの。それは、お父さんが定期的に手にする銀色の兵器——「鼻毛カッター」および「ピンセット」である。


ある日突然、鼻の穴の入り口が目眩(めまいの)するほど明るい光に照らされる。お父さんが鏡を覗き込んでいる証拠だ。どうやら、私が任務に熱中するあまり、少しだけ鼻の穴の外へ「こんにちは」と顔を出してしまっていたらしい。


「うわ、伸びてるな」というお父さんの呟きとともに、ピンセットが暗闇に突っ込んでくる。ターゲットは私だ。


やめてくれ! 私はお父さんを守るためにここにいるんだ! 抜かないでくれ!


その叫びも虚しく、ガチッと体を挟まれ、次の瞬間——「ブチィィィィィン!!!」という、脳天を突き抜けるような激痛とともに、私は住み慣れた毛根(故郷)から引きちぎられてしまうのだ。抜かれた後の毛穴に残る、あのジワッとした涙が出るほどの痛みと孤独感は、本当にやり切れない。


​さて、そんな栄光と命がけの日々を送っていた、ある初夏の朝のこと。


その日のお父さんは、お気に入りのスターバックスで「 モバイルオーダー」した冷たいフラペチーノを片手に、ご機嫌でリビングのソファに座っていた。


その時、お父さんの鼻の粘膜を、冷気とともに「1粒のハウスダスト」が強烈に撫でた。


​(来た! 特大クラスの刺激だ! みんな、衝撃に備えろ!)


​「ハッ……ハッ……ハックション!!」


​お父さんの特大のくしゃみが炸裂した。


しまった、今回は風圧が強すぎる! と私が気づいた時にはもう遅かった。時速160キロを超える猛烈な突風が鼻の穴を駆け抜け、根元のホールドが甘かった私は、お父さんの鼻水とともに「スポーーーンッ!」と勢いよく外の世界へ吹き飛ばされてしまったのだ。


​(さらば、右の鼻の穴よ……私はこのまま、リビングのフローリングの藻屑となるのだな……)


​私が空中を優雅に舞い、絶望のまま落下していった、その瞬間。


お父さんの足元で、彼が昨日買ったばかりの、最新鋭の「全自動ロボット掃除機」が、ウィィィンと音を立てて健気に働いていた。


​吸い込み口へと引き寄せられた私は、その強力なバキュームによって、ロボット掃除機の暗黒のお腹(ダストボックス)の中へと綺麗に吸い込まれた。


しかし、ただゴミとして捨てられるだけの運命ではなかった。私の強靭な「漆黒の縮れ毛」の形状が、ロボット掃除機のメインブラシの回転軸の隙間に、奇跡的な角度で「クルクルッ」と完璧に巻き付いてロックされてしまったのだ。


​……それから数週間。


現在、私は人間の鼻の中にはいない。


佐藤家の床を24時間体制でパトロールする、お掃除ロボットの「駆動ギアの最重要フィルター」として、第二の人生(毛生)を謳歌している。


​どうやら、私の「絶妙な縮れ具合」と「人間の油分を含んだ頑強な毛質」が、掃除機が吸い込んだ細かいホコリや髪の毛が精密なモーターの回転軸に絡まるのを防ぐ、最強の『防塵プロテクター』として機能してしまったらしい。


私のおかげでロボット掃除機は一度も故障することなく、佐藤家のリビングはいつもピカピカだ。お父さんも「この掃除機、全然ブラシにゴミが絡まないし絶好調だな!」と大満足している。形は変わったが、今でもお父さんの快適な暮らしを最前線で守れているのは、鼻の穴のガードマン時代に劣らない誇らしい気分だ。


​ただ一つだけ問題があるとするなら。


元々が「お父さんのDNA」を色濃く受け継いだ毛であるため、テレビの経済ニュースでお父さんが大好きな「日経平均株価」の値動きが報道されたり、お母さんがキッチンで「今日の夕飯はエビチリよ!」と言ったりするたびに、私の毛根の記憶(本能)が激しく共鳴してしまい、ただの掃除機パーツのはずなのに、私の体がビクビクッと勝手に震えてロボットのセンサーを狂わせてしまい、掃除機が何もない壁に向かって「ガツンガツン!」と激しく頭突きを繰り返す謎のバグ(お父さんの興奮の同期)を引き起こしてしまうことである。どうかお父さん、私のためにリビングでは常に冷静でいてほしいと、ルンバの底から静かに念を送り続けている。