短編小説 | ビックの部屋

ビックの部屋

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里山にある、江戸時代から続く老舗の蔵元「梅天狗(うめてんぐ)」。ここで、創業200周年を記念して仕込まれ、オークションで数百万円の値がつくと評判の限定梅酒『琥珀の極(こはくのきわみ)』の一升瓶が、鍵のかかった厳重な熟成蔵から忽然と姿を消した。

現場にいち早く駆けつけたのは、小柄な体をせわしなく動かすスモール探偵である。彼は巨大な杉樽の周囲を飛び回り、得意げに声を張り上げた。

「ふははは! 蔵人の皆さん、ご安心を! この歴史ある密室消失事件、私スモールが梅の果実が熟すよりも速く解決して差し上げましょう!」

1.スモール探偵の踏みとどまり、からの大やらかし

スモール探偵は、空っぽになった展示台のすぐ下に、なぜか「緑色のシワシワした丸い物体」がポロッと転がっているのを発見した。彼は手を伸ばしかけて……ピタリと動きを止めた。

「……いや、待てよ? 前回の事件で、私はガレージで廃油をぶちまけて大惨事を引き起こした(奇跡的に解決はしたが)。いつまでも奇跡に頼る私ではない! 今の私は、梅の香気成分(ベンズアルデヒド)の拡散濃度から犯人の逃走経路を弾き出す、アロマ・タクティカル探偵へと進化したのだ!」

スモール探偵の立派な(?)成長に、周囲の警察官たちが「おおっ」と感嘆の声を漏らす。

「皆さん、犯人はこの最高級の紀州南高梅の果実を盗み出す際、焦って落としたに違いない! 梅の成分は特定のアルコールと反応すると微弱な熱を発します! 私が持参した『超高圧・アルコール気化噴射ランチャー』をこの熟成蔵全体に散布し、犯人が浴びた梅の粒子を激しく反応させて特定してみせましょう!」

スモール探偵はドヤ顔で、手にした巨大な噴霧器のノズルを上に向け、一気にレバーを引き絞った。

「これでお前の乾杯は完全終了だ! 泥酔させてくれるわ!!」

プシューーーーーーッ!!!

ノズルから放たれたのは、成分を反応させるどころか、室内のわずかな火種にも瞬時に大爆発を起こす「超高濃度・純度99%の気化エタノールガス」だった。ガスは蔵の換気扇を逆流し、なんと蔵の奥に設置されていた『神事用の巨大な御神酒(おみき)用の炭火ヒーター』に直撃! ドッカーーーーーン!! という凄まじい爆発音と共に、蔵の天井の梁が激しく燃え上がり、スプリンクラーが一斉に作動。大量の水と気化したアルコールが混ざり合い、蔵の中は一瞬にして「度数30度の激熱アルコールサウナ」と化してしまった。

「うわあああっ!? 蔵が! 蔵が度数強めのサウナになったぁぁぁっ!?」 スモール探偵は爆風で真後ろの壁へと吹き飛ばされ、そのまま空になった「特大の仕込み樽(直径2メートル)」の中に頭からスッポリと突っ込み、アルコールの蒸気で一瞬にして泥酔してそのまま気絶してしまった。

2.覆る真実

「あーあ、また大惨事だ……」 仕込み樽の中からスモール探偵の足を引き揚げながら、ベテランの鑑識官がため息をついた。

「あの『琥珀の極』の失踪原因、大怪盗の仕業でも何でもなく、ただの『まぬけな梅酒職人』の自爆だったんだよ。この蔵で働く新人職人の男が、昨晩の試飲で猛烈に二日酔いになっててテンパってたんだな。自分が今朝ポケットに入れていた『緑色の梅味の千歳飴(100円)』を神々しく展示台に飾り、本物の限定梅酒のボトルの方は『お土産用のただのタダのタレ瓶』と勘違いして、バックヤードの従業員用冷蔵庫に放り込んでたんだ。要するに、ただの私物と商品の入れ替えミス。本物はさっき、その職人が『喉が渇いたなー』って冷蔵庫からボトルを開けてぐびぐび飲み、『うわっ、これ本物の限定梅酒じゃん!!』って初めて気づいて、外の廊下で腰を抜かして震えてるよ」

つまり、事件性は最初から皆無であり、ただのおっちょこちょいな職人の品出しミスだったのだ。しかし、スモール探偵がランチャーを暴走させたせいで、歴史ある熟成蔵は水浸しとアルコール蒸気でカオスな修羅場と化してしまった。

3.ビック探偵のあらゆるトリックを使った解決

「仕方ない。僕が伝統ある蔵元の Order(秩序)を取り戻そう」

アルコールの匂いが充満する蔵のロビー。長身のビック探偵は、優雅に温かい緑茶を飲みながら、集められた蔵関係者たちの前に静かに立った。

「スモール君が蔵の歴史を物理的にアルコール蒸留(アシスト)するという大失態をおかけしたようだ。しかし、このパニックのドサクサに紛れて、ある人間が本物の『泥棒トリック』を実行している。だから、少しばかり私の手品(ハッタリ)に付き合ってもらおう」

ビック探偵は、この蔵元の「番頭(マネージャー)」の前に歩み寄った。

「番頭さん。あなたはスモール君がアルコール爆発を起こして蔵内が大混乱になったドサクサに紛れて、帳場(受付)の金庫にあった『本日の見学ツアー売上金300万円』を自分のビジネスバッグの中に隠しましたね」

「な、何を馬鹿な! 私は蔵人たちの避難誘導と、樽に落ちた探偵の救助で必死だったんだ! 証拠でもあるのか!」

「なるほど」ビック探偵は懐から、ピカピカと明滅する「謎の円盤型リモコン」を取り出した。

「これは、警察の科学研究所が開発した『アルコール・静電気追跡レーダー』です。先ほどスモール君がぶちまけたエタノールガスの影響により、この部屋の空気中には強烈な『揮発したアルコールの微粒子』が舞っている。このレーダーを使えば、そのアルコールを浴びながら、同時に『大量の紙幣(売上金)』に触れた人間のビジネスバッグの持ち手を、特殊な超音波で『強制的に超高温に発熱』させることができます。……さあ、起動しましょう。3、2、1」

ビック探偵がボタンを押すフリをして、手元でカチリと音を鳴らした。 すると、番頭は「ひぃっ!?」と悲鳴を上げ、思わず自分の「両手(バッグを握っていた手)」を胸の前でガッチリと固めて、火傷を恐れるように震わせた。 その拍子に、抱えていたバッグの口が開き、中から盗まれたはずの300万円の札束が床にバラバラと飛び散った。

「おやおや、素晴らしい反応だ。番頭さん、その両手……あなたが今、発熱を恐れて必死にバッグを放り出したその手で、金庫から現金を盗み取ったのではありませんか?」

「くっ……! な、なぜ本当に手のひらが熱くなったんだ……!」 番頭はガタガタと震えながら、自ら床に膝をついた。

「……私がやりました。職人のまぬけなミスで蔵が大混乱になり、さらに探偵が爆発を起こしたのを見て、これならどさくさに紛れて盗んでも、全部『爆発のドサクサで紛失した』と言い訳ができると思ったんです……!」

番頭が床に泣き崩れたのを見届け、警察に連行されていくのを見送りながら、ビック探偵はリモコン(ただの蔵のエアコン用リモコン)をポケットにしまった。

「な、なぜ本当に手のひらが熱くなったんだ……? 醸造の科学捜査なのか!?」 連行される間際、番頭が悔しそうな顔で尋ねる。

「そんなわけないでしょう」ビック探偵はニヤリと笑った。 「あなたがさっきから、避難する時もずっと『300万円の重みがあるバッグ』の持ち手を両手で血が止まるほど必死に握りしめていたから、手のひらに汗がにじみ、皮膚が摩擦でジンジンと熱くなっていただけですよ。私がカウントダウンしたから、あなたが勝手にビクついてプレッシャーを感じただけ……ただの心理的なカマかけ(トリック)ですよ」

「あ……」

本物の『まぬけ』は、職人のハプニング(千歳飴との入れ替えミス)に乗じて完璧な火事場泥棒を装おうとしながら、ありもしないハッタリ(最新科学)に怯え、自らバッグを放り投げて証拠をアピールしてしまう犯罪者のことだよ。

 

「お見事です、ビック探偵ーっ!!……ヒック、もう一杯!」

仕込み樽から引き揚げられ、アルコールの蒸気で完全に目が座ったスモール探偵が、千鳥足で近づいてくる。

「君が蔵を最高のハッタリの舞台装置にしてくれたおかげだよ、スモール君。君のその真っ赤な顔、梅天狗の新しい『看板マスコット』にぴったりじゃないか」

ビック探偵は優雅に微笑むと、完全に呆れ果てた顔でスモールの背中をポンと叩き、そのまま静かに蔵元を後にした。