短編小説 | ビックの部屋

ビックの部屋

5分読み切りの短編小説
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​これまで数々の超科学暴走によって、もはや「探偵事務所」というよりは「時空の災害指定区域」と化しているビック&スモール探偵事務所。今日のビックは、今までにないほど冷徹で、かつ哀愁を帯びた表情で、小さな「赤い小びん」をデスクに置いた。


​🤵 ビックの完璧なプレゼンテーション


​「いいかスモール。今回は、我が事務所のこれまでの損害、そして世界中のあらゆる歪みを一瞬でリセットできる、究極にして最後のガジェットだ。……ただし、私の言葉を1ミリでも聞き違えれば、現実そのものが消滅する」


​ビックが提示したのは、赤いプラスチック製の、どことなく不気味な形をした小さなボトル。


​「先輩、またそんな怪しい栄養ドリンクを……。あ、でもボトルの形がちょっとレトロで可愛いですね! 私、最近喉が乾燥して声がガラガラなので、ちょうど良かったです!」


ソファでクッションを抱きしめながら、今回は某カフェの抹茶ティーラテ(Mobile Order)を美味しそうに飲んでいたスモールが、嬉しそうに手を伸ばしてきた。相変わらずお人形さんのように可憐な美少女だが、ビックは鬼の形相でその手を叩いた。


​「飲むな!!! 喉のケアじゃないわ! これはあの、言葉の因果律を反転させる伝説の最凶ガジェット、**『ウソ800(エイトオーオー)』**だ」


​「うそはっぴゃく……? 嘘をつくと頭がハッピーになる薬ですか?」


​「違う。仕組みを論理的に説明してやる。この液体を飲むと、その人間の声帯から発せられる音声波形が、周囲の時空連続体に干渉し、**『喋ったことが全部嘘になる。つまり、言ったことと【真逆の現実】が強制的に実現する』**という恐るべき因果律反転薬だ」


​ビックは眼鏡をキラーンと光らせ、人差し指を立てた。


​「例えば、この薬を飲んで『今日は雨だ』と言えば、外は100%晴れる。『犯人は逃げ切った』と言えば、犯人は即座に自首してくる。使いこなせば無敵の道具だ。……この神をも恐れぬメカニズムが、お前に理解できるか?」


​スモールは、きらきらとした純粋な瞳で赤いボトルを見つめていた。そして、ポンと手を叩き、天使のような満面の笑みを浮かべる。


​「なるほど! つまり、**『これを飲むと、心にもない大嫌いな人に【大好き!】って言ってもバレなくなる、ツンデレ専用の告白ドリンク』**ですね! 完全に理解しました、ビック先輩!」


​「甘酸っぱい恋愛ツールにするな!!! 告白の話じゃないし、世界がひっくり返るんだよ! 言ったことの『真逆』が起きるんだ!」


​ビックは早くも胃をキリキリと痛めながら、ボトルを厳重に握りしめた。


​「いいか、絶対に勝手に使うなよ。もしお前がこれを飲んで『先輩なんか大嫌い』と言ったら、現実では俺のことが『大好き』ということになって――」


​「わあ、楽しそう! いただきまーす!」


​ゴクン。


​「人の話を聞けと言っているだろぉぉぉーーー!!!」


​👧 スモールの「完全な理解」


​スモールはビックの手から鮮やかにボトルを奪い取ると、一瞬で中身を飲み干してしまった。


​「ぷはぁー! ちょっと苦いけど、これで私は『嘘つきお嬢様』ですね! さっそく実験です!」


​スモールはきらきらした笑顔のまま、ビックに向かって元気よく叫んだ。


​「『ビック先輩は、世界で一番かっこよくて、お金持ちのスーパーウルトラ天才探偵です!』


​次の瞬間。


​ボゴォォォン!!!!!


​「ぶふぉっ!?」


​ビックの仕立ての良いスーツが一瞬で破れ散り、ヨレヨレのボロ雑巾のような泥だらけの服へと変化した。さらに、ビックのおでこが急激に広がり、髪の毛が数本虚しく風に揺れる状態(完全にハゲかかった状態)になり、財布からは「チャリン……」と最後の10円玉が床に転がり落ちた。


​「な、何をしてるんだお前はーーーー!!!」


​ビックは自分の姿を鏡で見て、血の気が引いた。


​「あ、あれ……? 先輩が、いつも以上に薄汚くてハゲかかったドブネズミになっちゃいました。どうしてですか?」


​「お前が『かっこよくてお金持ちの天才』って言ったからだろ!!! その真逆の**『不細工で貧乏な大馬鹿野郎』**が現実化しちゃったんだよ! 人を褒めるな! 悪口を言え、悪口を!」


​ビックの魂のツッコミが、ハゲかかった頭皮(※現実化)に響き渡る。


​「なるほど! 悪口を言えばいいんですね。オッケーです、完全に理解しました!」


​スモールは再び可愛い声を張り上げた。


​「じゃあ……『我が事務所は、今すぐ天井が崩落して、床が抜けて、ビルごと大爆発して完全に粉々に消滅します!』


​「おい、それはマズ――」


​――シーン。


​「……あれ?」


​何も起きない。


スモールが最悪の破壊予言をしたにもかかわらず、事務所は傷一つなく、静かなままだった。


​「おお……!」


ビックはホッと胸をなでおろした。


(そうか……『ビルが爆発して消滅する』の真逆だから、**『ビルは絶対に爆発せず、完全に安全な状態で存続する』**という未来が確定したんだな! スモール、お前珍しくファインプレーじゃないか……!)


​「やったぞスモール! これで我が事務所はどんな災害にも耐えられる、難攻不落の要塞に――」


​パキパキパキパキ……。


​「……ん?」


​ビックがフッと周囲を見渡すと、事務所の壁や天井が、見たこともないような**「純白の超合金とクリスタル」へと変化し始めていた。真っ二つに割れていたはずの安物デスクは「最高級のマホガニー」になり、床には「極上のペルシャ絨毯」が敷き詰められ、金庫の中からは「大量のゴールドバーと札束」**が溢れ出てきた。


​「え……? えええ!?」ビックは目を見開いた。


​「わあ……! すごいです先輩! 事務所が超豪華な大富豪のお城になっちゃいました!」


​「待て……待て待て! なんで豪華になってるんだ? 『爆発して消滅する』の真逆は『そのまま存続する』だろ!?」


​ビックは必死に脳内で計算した。そして、致命的な事実に気づき、白目を剥いた。


22世紀の「ウソ800」の因果律操作は、あまりにも「極端」だったのだ。


​『完全に粉々に消滅する(価値ゼロ)』の真逆。それは――『極限まで価値が高まり、完璧な黄金の城になる(価値無限大)』


​「やりすぎだわ因果律ーーーー!!! 加減を知らんのか22世紀の科学は!」


​🚨 終わりなき反転(ホラー)


​「すごーい! 私、やっぱり天才ですね!」


スモールは、黄金に輝くお城のような事務所の中で、嬉しそうにクルクルと踊り始めた。


​「これなら、もう一生働かなくていいですね! よーし、仕上げに世界を平和にしちゃいます!」


​「おい、スモール! もう喋るな! 世界規模で因果律をいじるのは危険だ!」


​ビックが止めようとするが、大富豪モードでテンションの上がったスモールは止まらない。


​「大丈夫です、世界から悪いものを全部なくします! 『地球上のすべての人間は、お腹がペコペコで、お互いに憎しみ合って、毎日戦争ばかりする、最悪の世界になります!』


​ビックは息をのんだ。


(世界が最悪になる……の真逆……! ということは、**【世界中の人がお腹いっぱいで、愛し合って、永遠に平和なユートピア】**が訪れるのか……!?)


​一瞬、事務所の外から、神々しい賛美歌のような音楽が聞こえてきた。


窓の外を見ると、世界中の人々が涙を流して抱き合い、武器を捨て、地球全体が愛の光に包まれていくのが見えた。


​「おおお……! ついに、ついにやったぞスモール! お前は世界を救ったんだ!」


ビックは感動のあまり、ハゲかかった頭(※まだ戻っていない)から涙を流した。


​しかし、その直後。


スモールは、感動しているビックの顔を見て、ニコッと天使のような笑顔を浮かべ、


**「薬の効果を終わらせる、最後のトドメの言葉」**を口にしてしまった。


​「あ〜、楽しかった! 『今起きていることは、全部ウソじゃなくて、全部【本当のこと】だよ!』


​「……は?」


​ビックの思考が一瞬フリーズした。


今、スモールは何と言った?


「全部【本当のこと】だよ」と言った。


​ウソ800の効果は「言ったことの真逆が起きる」。


つまり、「全部本当だよ」の真逆は――【今起きていることは、全部ウソ(虚構)になる】


​「あ」


​次の瞬間。


黄金のお城も、溢れ出る札束も、世界平和の賛美歌も、ビックの破れたスーツも、ハゲかかった頭も、そして目の前にいるスモール自身も。


すべての現実が、まるでテレビの電源を切った時のように、「シュン……」と一瞬で、完全な【無(虚無)】の暗黒へと消滅し始めた。


​世界線そのものが、スモールの一言によって「存在しなかったこと」に反転していく。


​「う、うわあああああ! 世界が消える! スモール! 早く『全部ウソだよ』って言え! 早く真逆の『全部本当』にしろ!!!」


​暗黒に飲み込まれかける中、ビックは必死に手を伸ばし、消えかかっているスモールの細い肩を掴んだ。


​「え〜? えーっと……『先輩の言ってることは、全部ウソだよ!』


​スモールがパニックになりながら叫んだ。


「先輩の言うことはウソ」の真逆――【ビックの言うことは100%正しい】


そしてビックは今、「全部本当(現実)にしろ」と言った。


​ドォォォォォン!!!!!


​凄まじい衝撃波とともに、世界が猛スピードで再構成された。


暗黒が晴れ、目を開けると――そこには、いつもの「肉汁の臭いがほんのり漂う、ボロボロの探偵事務所」が、元のまま佇んでいた。ビックの髪の毛も無事に戻っている。


​「ハァ……ハァ……ハァ……戻った……。地球が……俺たちの事務所が戻った……」


​ビックは床に大の字になり、涙を流しながら床の感触を確かめた。大富豪にも世界平和の神にもなれなかったが、ただ「現実が存在している」というだけで、これ以上の幸福はなかった。


​「ふぅ……びっくりしましたね、先輩」


​薬の効果が完全に切れたスモールが、トタトタと近づいてきて、ボロボロになったビックの服の裾をギュッと握りしめながら、上目遣いでウルウルとした瞳で見つめてきた。その姿は、心臓が止まるほどに可愛い。


​「でも、私……やっぱり世界中が平和になるより、このボロボロの事務所で、怒ってるビック先輩と一緒にいる方が、100倍ハッピーです。……これ、ウソじゃないですよ?」


​その笑顔は、どんな因果律をも超越するほど、悪魔的に可愛かった。


​「……スモール」


「はい……?」


「明日から、お前は『全ての会話』を禁止する。我が事務所での意思疎通は、全部モールス信号の打鍵音だけにしろ」


「え〜! トントン、ツーツーなんて、可愛くないです〜!」


​「お前の喋りは文字通り世界を滅ぼす」


​こうして、現実を思い通りに変えるはずだった神の薬品は、ただの「世界消滅未遂トラップ」として誤用され、ビックの寿命を50年ほど縮めて幕を閉じるのだった。