短編小説 | ビックの部屋

ビックの部屋

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​郊外の小高い山に建つ「星空天文台」で、展示されていた目玉の展示物、希少な隕石「星の雫」が忽然と姿を消した。


​現場にいち早く駆けつけたのは、小柄な体をせわしなく動かすスモール探偵である。彼は割れたガラスケースの周囲を飛び回り、得意げに声を張り上げた。


​「ふははは! 警察の皆さん、ご苦労様です! この不可解な事件、私スモールが光の速さで解決して差し上げましょう!」


​1.スモール探偵の踏みとどまり、からの大やらかし


​現場には、奇妙な痕跡が残されていた。床には緑色のドロドロとした「謎の粘液」が垂れており、そこから窓に向かって、三本指の不気味な足跡が続いているのだ。


​スモール探偵は粘液の前にしゃがみ込むと、指先を伸ばし……ピタリと動きを止めた。


​「……いや、待てよ? 前回の事件で、私は謎の粉を舐めて豪快に気絶した。同じ轍は踏まない! 今の私は、一歩引いて冷静に推理できる探偵へと進化したのだ!」


​スモール探偵の立派な成長に、周囲の警察官たちが「おおっ」と感嘆の声を漏らす。


​「舐めずに観察する! この緑の粘液、そして三本指の足跡……間違いない! 犯人は、この町のPRキャラクター『カッパの河太郎』の着ぐるみアクターです! 彼が着ぐるみを着たまま隕石を盗んだのです!」


​スモール探偵はビシッと指を突きつけた。


「彼がどうやって逃げたか、私が実演して見せましょう!」


言うが早いか、スモール探偵は展示用の「亀の甲羅」のレプリカを背負い、「こうやって床を滑って……!」と緑の粘液の上に勢いよくダイブした。


​「とりゃぁぁ——うわあああっ!?」


​粘液は想像以上に滑りが良く、スモール探偵は甲羅を下にして猛スピードで回転しながら床を滑走。そのまま勢い止まらず、部屋の隅にあった巨大な「地球儀」に頭から激突し、地球儀の中にすっぽりと挟まって抜けなくなってしまった。


​「ふ、ふががっ! 警察の皆さん、私にかまわず河太郎の逮捕を……!」


中からくぐもった声が響く中、鑑識官が呆れ顔で報告にやって来た。


​2.覆る真実


​「あーあ、またやらかしてるよ……」


鑑識官は、地球儀を被ってジタバタするスモール探偵を横目にメモ帳を開いた。


​「あの河太郎のアクターさん、今日は隣町のイベントに出張中で、数百人の観客と一緒にいたという完璧なアリバイがありました。それにこの粘液、ただの『工作用のスライムに蛍光塗料を混ぜたもの』です。足跡もスポンジのスタンプで作られた偽装ですね」


​つまり、カッパの犯行でも宇宙人の犯行でもなく、何者かが「宇宙人の仕業(あるいは妖怪の仕業)」に見せかけようとしただけの、チープな偽装工作だったのだ。事件は再び振り出しに戻ってしまった。


​3.ビック探偵のあらゆるトリックを使った解決


​「仕方ない。僕が出向くとしよう」


​現場の天文台。関係者たちが集められている前で、長身のビック探偵は、床に残されたスライムを静かに見下ろしていた。


​「スモール君が自ら地球儀と化すという大失態(アシスト)をおかけしたようだ。しかし、犯人は『まぬけな宇宙人のシナリオ』を演じ切ろうとするあまり、大きなボロを出している。だから、少しばかり『トリック』を使わせてもらおう」


​ビック探偵は、事件発生時に唯一現場にいた第一発見者、研究員の宙野(ちゅうの)の前に歩み寄った。


​「宙野さん。あなたは先ほど警察の聴取で、『突然UFOが現れ、緑色の宇宙人が光線銃でドロドロの粘液を撃ち出してきた。その粘液で両足を床に固定されてしまい、逃げる宇宙人を追えなかった』と証言しましたね」


​「そ、そうです! 私は宇宙人に襲われた被害者なんです!」


宙野は、自分の靴にべっとりと付着したグリーンスライムを指差した。


​「なるほど、恐ろしい体験でしたね」


ビック探偵は懐から、銀色の物騒な「スプレー缶」を取り出した。


​「実は先ほど、警察の科学研究所からこの『宇宙粘液』の分析結果が届きましてね。この粘液は、宇宙空間の特殊な物質でできており、『普通の水』に触れると、数千度の高温を発して大爆発を起こすことが判明しました」


​「なっ……大爆発!?」宙野の顔が引きつる。


​「ええ。あなたが汗をかかなくて本当に良かった。……しかし、そのままでは危険すぎる。私が持参したこの『特殊冷却ガス』で、一気に粘液を無力化しましょう。少々痛みを伴いますが、命には代えられませんからね!」


​「えっ? いや、ちょっと待っ——」


​「いきますよ!!」


ビック探偵がスプレーのノズルを宙野の足元に向け、勢いよく噴射しようとしたその瞬間


​「ひぃぃぃっ!! 爆発する!!」


宙野は絶叫し、両足を床から力強く蹴り上げて、見事な跳躍で2メートル後方へとダイブして逃げたのである。


​……静寂が落ちた。


​床には、宙野が履いていた「スライムまみれの靴」だけがポツンと残されている。


宙野は靴を脱ぎ捨て、靴下のまま腰を抜かして震えていた。


​ビック探偵は、スプレー缶(ただの窓ガラス用クリーナー)をテーブルにコトリと置いた。


​「おや? 宙野さん。あなたの両足は、宇宙人の粘液で『床に固定されて動けなかった』のでは?」


​「あっ……!」


​「固定されていたのは『靴』ではなく、あなたの『設定』だけだったようですね。工作用スライムで靴を床に貼り付け、宇宙人に襲われた哀れな被害者を演じていた。隕石を裏で転売するためにね」


​心理的なカマかけに見事引っかかった宙野は、完全に言い逃れができなくなり、その場に崩れ落ちた。


​「ご丁寧に靴を脱いで、自ら嘘を証明していただきありがとうございます」


​「お見事です、ビック探偵!」


消防のレスキュー隊によって地球儀から救出され、頭をフラフラさせながら戻ってきたスモール探偵が目を輝かせる。


​「君の体を張ったスライムの滑り具合の証明も、少しは役に立ったよ」


ビック探偵は優雅に微笑んだ。


​「本物の『まぬけ』は、自分が書いた陳腐なSFシナリオを守るために、ありもしないハッタリ(トリック)の脅威から本能で逃げ出し、自ら完璧な設定を破綻させてしまう犯罪者のことだよ」