5月5日は青天に鯉のぼりが舞う「鯉の季節」の象徴的な1日である。広島東洋カープにとってこの日が特別な1日であるように、筆者にとってもこの日は特別な一日であった。
当ブログにおいてカープ狂だった亡き父のことについてさんざん触れてきた(というかほとんどレクイエム)が、その父が1年365日で唯一、家庭サービスをしてくれた日でもあるのだ。といってもカープ観戦のために広島市民球場に家族で繰り出すだけのことだが、この日は試合終了後、広島最大の百貨店である広島そごうでほしいモノを買ってもらえるというボーナス付きで、子どものころはこの日を、手ぐすねをひいて待ちわびていた。
2026年5月5日、この日は横浜スタジアムでベイスターズとの第7戦が開催された。前回(4月29日)のこともあり、妻が家族4人分のチケットを入手。現在のチーム状況を東京ドームでさんざん目の当たりにし、さして期待もしていなかったが、関東に移り住んで十余年、一度もこのスタジアムに足を運んでいないこと。そして5月5日という特別な日であったことを自分に言い聞かせ、GW終盤の貴重な時間を割くことにした。
この日はぬけるような快晴。三塁側のウィング席での観戦だったが視点が高いだけにベイスターズファンのユニフォームの青、空の青、そしてビルの谷間から見える山下埠頭の海の青が混然一体となったスカイブルー一色。どの球場でも半分近くを埋めていた真紅の赤はレフトスタンドの一区画に縮こまっている。カープ旋風も今は昔…。
ただ、自分自身の網膜にスカイブルーの光景を焼き付け、おそらく他の球場には行ったことがなかったであろう冥土の父に画像添付して送ってやろうという気持ちでこの試合を見届けることにした。
この日のベイスターズ先発はベイスターズ不動のエース・東克樹(昨年の最多勝)。厳しい試合が予想される。下手をしたら「宮島さん」は唄えずじまいかもしれない。
しかしこの日の東はピリッとせず、2回には相手のエラーも絡み、2得点。まずは完封されなかったことに安堵した(悲しきかな)。
しかし、カープ先発の床田も粘れず、4回にあっさり逆転をゆるしてしまう。ここでただよう諦めムード。昨今のカープって一体何なのだろうか。
6回には伏兵・林琢真のダメ押しとも思える2ランHRが飛び出し、お行儀がよく、あまり大口をたたかないベイスターズファン(比・カープファン)からも
「今日はもらったな」
の声が漏れている(この時点で2対5)。
しかし、やはり5月5日はカープにとって特別な日だったのか、8回にドラ1平川が2点タイムリー2ベースHで1点差、そして9回、守護神・山崎康晃の登場で敗色濃厚な雰囲気の中、トップバッターの持丸が起死回生の同点ソロHR。鎮まりかえる空色のスタジアムに「宮島さん」を唄う面々のユニフォームが夕陽のように映えていた。
この後、試合は一転、膠着状態となり、各チーム中継ぎ陣総出の総力戦。12回引き分けで幕引きとなった。
敵は最初に勝ちパターンの投手リレーを投入して同点に追いつかれている。圧倒的に有利な立場にありながら勝ちきれないカープ。今のチーム状態を言い尽くしてあまりある試合結果であった。ただ、5月5日よろしく5対5のドローで終われたのが、特別な日に対する勝利の女神のお目こぼしのようで
「敗けてがっかりしなくてよかった…」
という安堵感だけが妙な余韻となって残った。
この後、横浜の街を散策する予定でいたが12回延長という想定外の時間を浪費したため、散策も何もあったものではなかった。ただスタジアムから眺望した山下埠頭の青が見たくて、渋る妻と長男・次男を説得し、港方面にむかった。
新緑の季節とはいえ、19時をまわるとさすがに暮色は濃くなり、山下埠頭の青は濃紺へと変わっていた。ただ、横浜港の夜景は、これまでの垂れこめた気持ちをかき消してあまりある絶景だった。そしてそれと向かい合うように屹立する“みなとみらい”のビル群…。
その空に一番星が一つ輝いていた。
さすがベイスターというだけのことはある。
オレとおんなじあの星みつめて、冥土の父は何を思うだろうか。
とにかく網膜に焼き付けて、星になった父に送ってやりたい。

