
METライブビューイングは、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で
そのシーズンに上演しているオペラを1回3500円というリーズナブルな料金で
映画館のスクリーンで鑑賞することができるオペラ鑑賞システムなのです。

今回観に行ったのはモーツァルト作曲のオペラ「皇帝ティートの慈悲」。
このオペラは「魔笛」とともに、モーツァルトが死ぬ年である1791年に作られた
彼の最後のオペラと言われているもの。
(実際は、「魔笛」よりも先に書かれたようですが)
形式は「オペラ・セリア」と言われるもので、
ギリシャ神話や歴史上の英雄、王などの活躍を題材としたイタリア・オペラ。
なので、紀元前1世紀に実在したローマ皇帝ティトスをめぐる話になっています。
このオペラの特徴的なところは、
男性役を女性が演じる、つまり「ズボン役」が2人もいること。
皇帝ティトスの親友であるセストをエリーナ・ガランチャ、
そのセストの友人アンニオをケイト・リンジーが演じています。
2人ともメゾソプラノ。
(セストはもともとカストラートが歌っていたいみたいですが。)
特にアンニオ役のケイト・リンジーは女性ながら
とっても端正でりりしい顔立ちで、男性役がすごくカッコイイ!

宝塚の男役みたいな感じで、あこがれてしまいます。
「ズボン役」というと、同じモーツァルトの「フィガロの結婚」の小姓ケルビーノ、
リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」の元帥夫人の愛人オクタヴィアンなどしか
知らなかったのですが、この「皇帝ティートの慈悲」以外にも
結構ズボン役はあるみたいです。
セストとアンニオをなぜ女性のズボン役出演じるのか、
その意味・必要性はオペラを観ていてもよくわからなかったです。
(でもきっと何かしら意味あるんだろなあ)
ストーリーは、ヴィッテリアという女性が皇帝ティートを憎んでいるくせに
皇妃になりたいと思っていたところ、別の女性と結婚すると知って
彼を亡きものにしようと計画し、彼の友人であり自分を慕っているセストを
うまくそそのかして暗殺させようとする。

結婚が中止になったため、いったん暗殺計画も中止になったけれど、
今度は、皇帝ティートがセストの妹であり、アンニオの恋人であるセルヴィリアと
結婚するというので、さあ大変。
アンニオとセルヴィリアは困惑するし、ヴィッテリアはまたしても
自分が皇妃になるチャンスを失ったと思い、
ティート暗殺計画をセストに実行させる。
(その後、ヴィッテリアはアンニオを愛していることをティートに告げ、
ティートはそのことを了承するのですが…)
幸い、ティートは無事だったけれど、裏切りの罪でセストが捕えられる。
ティートは彼が自分を裏切ったことを信じられず、
死刑宣告書に署名することをためらう。
そこに、セルヴィリアとアンニオに説得されてやってきたヴィッテリアが
首謀者は自分だと罪の告白をする。
そこで、ティートは「裏切りよりも慈悲が強い」としてセストもヴィッテリアも許す。
「皇帝は慈悲深い人だ」と一同が皇帝をたたえて、めでたし、めでたし。
このオペラは、神聖ローマ皇帝レオポルト2世がボヘミア王として
ボヘミア(現在のチェコのあたり)での戴冠式で上演するためのオペラ演目として
ボヘミア政府から依頼されたものだということなので、
(当初はアントニオ・サリエリに依頼されたものだけど、
サリエリが断ったのでモーツァルトにおはちが回ってきたんだとか!)
ラストは、「慈悲深い皇帝万歳!」というメッセージが
たーっぷり込められたシーンになっていました。
見ていてこの部分がなんとなーくわざとらしい感じがしたんですが(笑)、
このシーンは、きっと戴冠式だから皇帝をたたえるような
場面を作らなきゃとモーツァルトが考えたか、
政府からそういうシーンを要求されたかどっちかですね、きっと。
モーツァルトが死を目前にしてどんな想いで
このオペラを書きあげたのかは知るよしもありませんが、
全体にほかの曲以上に、シンプルで清らかで神々しい感じがしました。
そのせいか、前半はあまりに美しい音楽につい心地よくなり
半分ウトウトとしながらの鑑賞になってしまいました。
映画館での上映といっても、ちゃんと上映前の歌劇場の様子を
映しだしてくれるのでスクリーンだけを見ていれば、
まるで自分が歌劇場にいるかのような気分になります。
また合間に解説が入ったり、登場している主要なキャストへの
インタビューもあるので、実際にオペラ鑑賞するだけよりもお得感がありました。
このインタビューで印象的だったのは、何人かの歌手が
「モーツァルトを歌うと基本にかえることができる」と言っていたこと。
ヴェルティの作品なんかだと、ドラマティックに歌う必要があるけど
モーツァルトはとてもシンプルなだけに、歌うのが難しい。
そして、歌うことによって自分の歌の基本に戻れる。
そんなことが語られているのをきいて、ピアノ曲と同じだなあ、と思いました。
モーツァルトのピアノ・ソナタは比較的譜面上はやさしくて簡単そうですが、
シンプルなだけに難しいので、大人になってから弾くときはかなり緊張します。
よけいなものをそぎ落としたシンプルさ、という意味では、
モーツァルトの作品はどれも共通するものがあるみたいです。
こんなふうに考えさせてくれるインタビューがきけるのも
このMETライブビューイングの醍醐味ですねー。
オペラなので短いものでも3時間ほどかかってしまうため
演目によっては、平日夜に観られないものもありますが、
またこのMETライブビューイング、絶対観に行こうと思います。
