(平成29年1月)

 

   松の内も過ぎましたが、新年初の労務ニュースですので、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

   穏やかで暖かな天候に恵まれた年末年始でしたが、真冬の時期にも雪山に繰り出す山好きはいます。登山をしない、或は冬山には登らない方にとっては、「何でわざわざこんなに寒くて、しかも危険な時期に?」と思われるかも知れません。さて、なぜでしょうか?

 

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   40代の後半頃だったと思いますが、冬山の技術を学びたくて、登山ガイドの主宰する数名の冬山ツアーに参加したことがあります。1月の八ヶ岳をフィールドに、初日はアイゼンとピッケルワークを学びながら行者小屋から赤岳(2,899m)に登頂。下山路の地蔵尾根ではハーネスとロープ、8(エイト)環などを使った懸垂下降の練習を行い、ゲレンデ(岩や樹木のない平坦な斜面)では、滑り落ちながら胸に抱えたピッケルのブレードを雪面に突き立ててブレーキをかけて止まる滑落停止の訓練を何度も繰り返すのですが、だんだん上達するのが楽しかったものです。赤岳鉱泉に泊まって翌日は硫黄岳(2,765m)を経て、横岳(2,829m)から再度赤岳に縦走する計画でしたが、硫黄岳山荘に着いたころから猛烈な風となり、その先の尾根道は飛ばされる可能性があるため危険とガイドが判断して縦走を断念しました。この撤退判断も自分にとって大きな勉強となりました。長野県山岳連盟の冬山訓練では、五竜岳(2,814m)に続く尾根の斜面に雪洞を掘って泊まったことも楽しい思い出です。

 

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   八ヶ岳の北部エリアは「北八ッ」と呼ばれ、なだらかな尾根と幾つもの小さな湖沼、苔むす森を楽しめる人気エリアですが、ある年の1月に友人と北八ッの天狗岳(2,645m)を目指し、その肩にある黒百合ヒュッテで雪上幕営した時の驚きを今も忘れません。

 

   その晩テントでの夕食を終え、用足しにヒュッテの玄関に入った瞬間に食堂から聞こえて来たのは、なんと宴会の歌声や大盛り上がりのどんちゃん騒ぎ。通常、山小屋の夜は5時か6時に夕食が始まり、7時過ぎには終了して9時には全館消灯する決まりが殆どです。つまり「早や着き、早や立ち」が山の行動原則であり、夕飯も翌日に備えてさっさと終えるのが通例なのに・・。思わず、小屋の方に今夜は何のイベントかと尋ねると、いやいや最近はこれが結構普通の状況で、年間を通しても1~3月が宿泊客で一番賑わうとのこと。そう言えば、その日登山口の渋の湯からの登りで、50~60cmの積雪のルートを進みながら、幾つかの団体登山の方々を目にしていて、中には「○○旅行」と書いた小旗を手にしたツアーガイドに引率されたグループさえありました!つまり、登山口から3時間ほどの登りで冬山に登頂でき、1泊2食付きの山小屋で楽しく過ごせる北八ッは冬の人気スポットなのですね。

 

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   人はなぜ冬山に登るのか。動機は様々ですが、「見たい・知りたい・やってみたい」という人間の好奇心が原動力になっていることは間違いないでしょう。滑落停止の技術が日常生活で役立つ機会はないですが、好奇心が人類の発展を後押ししたのも事実ですね。