この記事には主人公たちのキャラクターに関するネタバレがあります。
以前Instagramでパンフレットを紹介した「荒野のストレンジャー」はクリント・イーストウッドが初めて監督した西部劇でした。
その後、アメリカ合衆国建国200周年記念と銘打って(?)制作された「アウトロー」、キャラクター的には「ストレンジャー」の続編と言える「ペイルライダー」、そしてオスカー作品賞と監督賞をW受賞(ほかにも助演男優=ジーン・ハックマンと編集で受賞)した集大成的作品「許されざる者」と続くイーストウッドの西部劇を、自分は勝手に「開拓西部の"伝説"を描いた」作品群だと考えています。
それはなぜかと言えば、主役が全員実体あるいは実社会での生活をともなわなず、記録にも残らない"伝説"(もしくは言い伝え)中の人物だから。
多分ゴーストであろう「荒野のストレンジャー」のストレンジャーと「ペイルライダー」のプリーチャー(牧師、説教者)はもちろん、「アウトロー」ジョージー・ウェールズは死んだことになったし、「許されざる者」のウィリアム・マニーはやむない事情で現場復帰(?)し大暴れしたあと嵐のように去っていった"伝説のガンマン"でした。
これらのなかでも主人公の正体がまったくわからない「ペイルライダー」(「荒野のストレンジャー」のストレンジャーはリンチで殺された保安官のゴーストであることが示唆されています)は、再映画化かと思うほど「シェーン」によく似たプロットとストーリー展開を持っています。
これだけ似ているのであればもしや、と考えてクレジットをよくよく見ましたが「シェーン」をベースにしているというような記述はなし。公のレビューにもそのような言及は見当たらないのですが、さすがにネット上では二作の類似についていろいろ言われているようです。
それを検証するのが目的ではないので、興味がある方は「シェーン」と「ペイルライダー」でググっていただくとして、自分が今回注目したいのは「シェーン」。
というのも「シェーン」は「続・夕陽のガンマン」「許されざる者」を含む西部劇中、というか自分がこれまでに観た(2300本足らずの)映画の中で最も好きな映画だから、なのです。
特に年配の映画ファンであれば「シェーン」を知る人は多いでしょう。ストーリーは覚えてなくてもテーマ曲「遥かなる山の呼び声」(The call of the far away hills)や、ジョーイ少年がラストで叫ぶ「シェーン、カムバーック」は覚えて(あるいは知って)いると思います。
その名画(あえてそう呼びますが)の主人公、シェーンですが、これが「ペイルライダー」のプリーチャー並みの謎の人物。
というのも誰も
- 彼のフルネーム
- 彼の出自(生まれ育ち)
- 彼が何をしている(してきた)人か
- 彼が何をしに来たのか(どこへ行く途中なのか)
を知らず、さらには
- 彼の妻子や親兄弟に関するなんらの情報もない
- 彼自身、過去の思い出などを一切語らない
- そもそも彼が何を考えているのかわからない
と謎ずくめ。
かろうじて早撃ち対決するウィルソン(ジャック・パランス)が噂を聞いたことがある程度、ということはまさに正体不明の"伝説の男"なのです。
そもそもシェーンを演じたアラン・ラッドは、数々の主演作で正体の知れない男、でなければ何を考えているのか、次にどう出るのかがわかりにくい人物を演じることが多かっただけに、シェーンのキャラクターにはまさにぴったりでした。
インターネットもSNSもない当時、個人情報が明確でないのは当たり前と思われそうですが、自分がこれまでに観た200本を超えるアメリカ製西部劇の中ではここまで正体不明なのは珍しい。
マカロニであれば"ドル箱3部作"でイーストウッドが演じた役や、「続・荒野の用心棒」で創造されたジャンゴ、テレンス・ヒルの「ミスター・ノーバディ」などが思い浮かびますが、本国アメリカ版ではそれこそ「ペイルライダー」くらいではないでしょうか。
「ペイルライダー」制作に当たりイーストウッドが「シェーン」を最も参考にしたのは、プロットやストーリーではなく主人公のキャラクターだったと思います。
ジョーイ少年に早撃ちを見せるシェーン
プリーチャーとメーガン