石ノ森章太郎の「サイボーグ009」はサイボーグという概念と言葉を日本に定着させた画期的な作品であり、世界的に見てもサイボーグを主人公としたストーリーでは随一の作品ではないでしょうか。
実は好きな漫画家の中で、"絵"が一番好きなのが石ノ森章太郎。特に手塚や横山にはない線の色っぽさ、なまめかしさは、いまだに他の漫画家にはまねができないレベルだと思います。
戦隊もののお約束である紅一点フランソワーズ・アルヌール(003)を始め、ギリシャ神話に範をとったミュートスサイボーグのヘレナやヨミ編に登場する地底人姉妹など、美しい女性キャラクターはもちろんですが、島村ジョー(009)初め男性キャラクターにもいろんなタイプのイケメンが揃っています。
この辺りはのちの作品でも同様で、自分が特に好きなのは「竜神沼」(短編)「メゾンZ」「ブルーゾーン」「幻魔大戦」「ジュン」「佐武と市捕物控」など。「ジュン」は以前骨董市で古本を見かけたものの、買おうか買うまいか逡巡しているうちに誰かに買われてしまいました(涙)。「佐武と市捕物控」は次回ちょっとだけ詳しく紹介します。
サイボーグ009はまた完結していない作品としても知られています。平井和正と共同脚本の「幻魔大戦」も同様で、どうも石ノ森先生はテーマを広げ過ぎて収集できなくなるという傾向があるようですね。
この作品はまた、石ノ森の他の作品、「仮面ライダー」や「ロボット刑事」「変身忍者 嵐」などと同じく、"造られた"存在の哀しみをテーマにしていますが、それはまた別途として「サイボーグ009」が画期的だったのは、"死の商人"の存在を幼い子供たち(から大人まで)に知らしめかつ広めたことだと思います。
ご承知の通り、"死の商人"とは、戦争など武力衝突に際し必要な兵器・武器を販売して利益を上げる人々を指しますが、009での彼らは、明確に戦争を引き起こしかつ油を注ぐ存在であり、さらには両陣営と取引することでより多くの利益を上げようとする集団として描かれています。
その元締め組織であり、そもそもサイボーグたちを兵器に改造した張本人であるブラック・ゴースト(黒い幽霊団)との壮絶な戦いは「地底帝国"ヨミ"編」で一旦終局を迎えますが、ラスボスである人工知能は憎たらしいことに破壊されようとする間にも009に対し、人間がいる限り争いはなくならずブラック・ゴーストも滅びることはない、とのたまいます。
今の世界情勢を見ていると、まことにそのとおり。学ぶことのない人類は自らの手で自らの首を絞めて果てるのでしょうか。
※イラストは島村ジョー。アトムや鉄人とは違いそらでは描けないので原画等を参考にしました。