こわれゆく世界の中で Breaking and Entering ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

予備知識なくタイトルのみ見ていたため、近未来の終末世界をテーマにした映画かと思っていたところ、予想が大きく外れて素敵な拾い物をしました。

この作品には、「美しい」という印象を強く持ちました。ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライトら主演陣のすがたかたちが美しいというだけではなく、登場人物達の会話、しぐさ、行動(盗みにはいるミロの動きさえ)からロンドンのキングスクロスの風景、倉庫を改装したオフィスに至るまで、何とはなしに美しいのです。

貧困や気持ちのすれ違い、犯罪に嘘と秘密といった、ある意味行き場のない渇いたテーマを扱い、かつそれらに明確な答が得られないにもかかわらず、諦めや自暴自棄に陥ることなく希望が持てるように感じるのはこの美しさがあるからです。で、その美しさは、人が人を思いやる心、さらには人が何かを愛しいと思う心からくるように思いました。
例えば上方から見たロンドンのごみごみした町並もそれを美しいと感じるミロの目を通して美しく見える、そうした心の機微、それが映し出すもの、その表れである会話やしぐさなどの(上述の)ことどもを丁寧に映像と音声がすくいとっているのです。

それほど丁寧な心をこめた仕事をしたアンソニー・ミンゲラ監督(「イングリッシュ・ペイシェント」、「コールド・マウンテン」)ですが、まだまだこれからだろうというのに享年54歳で亡くなられました。温暖化や終わりの見えない国家間・民族間の争いでこわれ始めた世界の中で、美しく愛と希望を語れる人がまた一人いなくなったことは本当に残念です。