カゲプロ想像小説リライト。第56話。『運命の女神』。 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 第56話。『運命の女神』。



「結論から言うけど、言ってしまうけれども、実際問題、『メカクシ団』が爆弾から逃れられるかどうかなんていうのは瑣末な問題で、結局、彼らがあそこで生還するかどうかは1人の男の『運命』に委ねられていると言ってもいいでしょうね。

 でもその男は『メカクシ団』のメンバーではない。『メカクシ団』に後から追加されたから、『メカクシ団』に含めないって意味じゃなくて、そもそも本当に『メカクシ団』的には完全な部外者の彼の名前は――まあそう、『あの目』ね。

 『あの目』。『EB5757』。それで意味が通るのだから、取りあえずここで彼の本名を明かす必要性を私は感じないのだけれど、とにかく彼こそが『鍵』であり、逆に言えば彼のせいで、『メカクシ団』はあのような結末を迎えたと言ってもいいでしょう。

 私がやったことは簡単なことだった。

 生後まもない『あの目』に、「あなたは世界でも、そして、あなた自身の世界の中でも真の強者ではありえない。何故なら、あなたは未来で負けるのだから。どうしようもなく敗北することを『運命』付けられているのだから」、そう吹き込んだだけ。

 これにより、何が変わるかと言えば、単純に『あの目』が弱体化する。自信を持ってはいるけれども、しかし、心のどこかでその絶対性を疑うような無意識が発生する。

 結果どうなるか。

 今回の爆発から逃れられない『運命』に『メカクシ団』が陥った原因は、大きく分けて2つあって、1つ目は『あの目』の『過日鳥籠』と『末期混沌』という、2つの特殊ループを経験したヒヨリを、ヒビヤが救済したことによる2人の精神的成長が、『クロック』をヘッドノック・『あの目』戦で使い切らせてしまったこと。

 2つ目はコノハが『可能性世界』で『あの目』を倒しきれなかったことにある。

 『あの目』の弱体化により、『過日鳥籠』と『末期混沌』は構築されず、ヒヨリはヒビヤがいなくなった後も、陽炎に1人殺されるだけの運命を辿り、精神的成長もないのだから、ヘッドノック戦は傍観し、『クロック』を温存でき、最後の『時限爆弾』の際に使うことが出来る。

 そして、『可能性世界』で『あの目』は『運命』付けられた敗北を知り、もうそこで再起不能になってしまう。――人間の心なんて脆いものね。あっははは!

 という訳で、これでハッピーエンド。そうでしょ? 全ての記憶が失われ、ただ私の『運命』への細工で延命したに過ぎないとしても、それで良かったでしょう?

 手でも叩いて笑いましょうよ。

 仲間との絆も失われ、私との論戦の記憶も持たないあなた達が、これからどんな『悲劇』にのたうち回るのか、私は精々『特等席』で鑑賞させてもらうことにするからさ」