TIPS7.天使 2011/04/10 13:20 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 入学式も午前中で終わり、さあ、これから帰ろうかという時に、
「2年B組の――――君、私用があります。これから生徒会室に来てください」
 と、呼び出しがあった。
 おいおい……随分大胆な職権乱用じゃないか……生徒会長さん。
 僕はあなたのことはもっと清楚な女の子だと思っていたんだけどな……w
 っていうか、もう帰りたい。帰らせてください。

 とはいえ、生徒会長の呼び出しが何なのか、気にならない訳でもなかったし(逆にだからこそ、そこに意味深な何かを汲み取ってしまうからこそ帰りたかったとも言えるのだが)、呼び出しをすっぽかして後でどうなるか(どうなるかはわからないにしても)怖かったので、一応、お願いは聞いておくことにした。

 生徒会室に入ると、そこには生徒会長一人しかいなかった。まるで理事長室のような構え。
 ただ一人の女の子が、その部屋の実権を握り、支配しているというような構図。
 その女の子の髪は白かった。
 そして瞳は赤かった。
 ハーフなのかな……とボケたことを思って、そのついでに現実逃避気味に、あの九尾の狐っぽい名前の頭のおかしい娘の予知みたいな何かは当たってしまったのかな? と一瞬だけ頭をよぎった。

「……あなたに話があります」

 単刀直入だった。そして何だか、この部屋の支配者にはふさわしくない、眠そうな視線と声だった。

「ボマー。あなたに死そのものの退治を手伝って欲しいんです」

 うわちゃー。

「っていうかそれ、なんかもう凄いバレバレっぽいんですが、どうしてなんですかね? 僕は一応、闇に潜む能力者を気取ってたりするんですけどね……w」
「ええと……他にも誰かに気付かれているんですか?」
「生徒会長で3人目ですね」
「迂闊なんじゃないでしょうか……」
 うう、なかなか傷つくことを言ってくれる。気を取り直そう。
「そもそも、死そのものってなんなんですか?」
「死そのものは、死そのものですよ。2ちゃんねる掲示板の書き込みをご存知ないですか?
 エイプリルフールの……」
「あああ……知ってます。それ、従兄弟の刑事に話しちゃいました……」
「えぇっ?! ……でもまあ、警察にはどうせ何もできないでしょうね……ともかくあの書き込みは本当です」
「何故そう言い切れるんですか?」
「この高校でも既に死んでいる生徒がいるからです」
「…………」
 ちょっと気を落ち着かせるために、わざと自分の髪から頬を指でなでてみる。
「そもそも、なぜ、生徒会長はその件に首を突っ込んでいるのですか?」
「ふう……やっとその質問が来ましたか。それは初めに来て然るべきではないですか?」
「すいません。人への興味が薄いもので……」
「正直ですね……。
 私は天使です」
「はい?」
「天使とは規律を順守し、法則を守るもの……あまり異分子に領域内で暴れられるのは不愉快です」
「縄張り意識……」
「何か言いましたか? あなたも異分子として認定されたいのですか?」
「今、僕、脅迫されてるよ……」
「誰に向かって言っているのですか?! いい加減にしてください……」
「わかりましたよ」
「え?」
「だから、僕にできることがあったらですけれどやるのはかまいません。
 ただ、今、表立って動くのは避けます。まず、あなたの話が本当かどうかわかりません。僕の従兄弟はそこそこ優秀なはずなので、うまくいけば面白いことにもなるでしょうしねw
 僕が動くとしたら、相手の存在が確定したその時点です。
 ……いいですか?」
「いいでしょう。
 仕方ない……というか、現時点では私も相手の特定の段階です。
 それでは、時が来たら協力をお願いしますね」
「ちなみに、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょうか?」
 天然顔で首をかしげる彼女に、
「天使のツバサっていうのを一回見せてもらえませんか?」

 一瞬だけ見えたそれは、とてもとても美しかったことだよ。