彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。

 

これは彼との愛の物語


 ジジイストーカーとの対決に臨む彼の行動力は凄まじかった。FacebookからNのページを見つけ出し、おおよその住居地や職業を突き止めた。そして乗っている車をヒントに周辺を自分の足で調査して、ついには家を特定してしまったのだ。見覚えのある服が干してあるので間違いない。
「どうする?燃やしちゃう?」
 なんて不敵な笑みで言う彼。やってやりたいところだけど、さすがにそれはできない。
 まずは情報収集。家に車はないし中で人の動く気配もない。彼の指示でお宅に突撃する。表札にはNの名前と女性の名前が2つ。誰かいたとしてもセールスか宗教でも装えばいいと、予めセールストークを考えながらインターホンを押してみる。やはり誰もいないようだ。
 そして指示通り郵便受けを覗く。あった。ダイレクトメールを失敬して退散。
 すぐに場所を変えてダイレクトメールをじっくり拝見する。宛名は女性の名前だった。妻に先立たれているというのが本当なら娘だろうか。送られてきていたのは占いの月刊誌。若い女性である可能性が高い。
「娘が2人もいるのに若い女にストーカーって何考えてるんや!」
 憤る彼。おそらくは娘と大差ない歳の女に執着して脅迫までするとは正気ではない。
「娘も同じ目に遭わせてやるか。やってる写真撮って送りつけてやる」
 彼がニヤリと笑う。フェミニストなところのある彼にそんなことができるとも思えないけれど。
「Kがやるの?」
「だめ?」
「父親そっくりの薄毛で眉毛ボーンだったらどうするの?」
「そりゃ無理や!」
 そこで二人して大笑いした。
「まあ、娘を見つけ出して、親父が何してるかバラしてやるのがいいか」

 彼は私と会わない日には、仕事帰りにNの自宅付近に張り込むことを続けていた。探偵ごっこを楽しんでいる部分もありそうだが、そんないたずらっ子じみた彼を可愛いとも頼もしいとも思った。
 そんなとき、再びNからの呼び出しがあった。
「機嫌直して仲良くしてくれたらそれでいいんだ。そうしなきゃ、家まで訪ねていきますよ?」
 彼にはもう少し素知らぬ顔でやり過ごせと言われていたけれど、我慢の限界だった。

 ケリをつけるべく私は作戦を立てた。待ち合わせのときからスマホの録音アプリを起動して、脅迫の証拠を録音する。
 しかし脅迫の証拠になるような話を引き出すつもりが、怒りのあまりほとんど言葉を発することもできず、ただNの不快な言葉だけが録音された。
 無言の私を乗せて向かったのはバイパス沿いの古臭いラブホテル。これだけ怒り満面で冷たく黙り込む女と楽しくイチャイチャできるとでも思っているのだろうか?
 ホテルの一室に入りNがソファで寛ぎ始めたところが好機。こうなったら破れかぶれだ。家族に遊びがバレようが構わない。このキモいジジイを葬るには国家権力しかない。扉に鍵をかけて110番をコールした。
「助けてください!ストーカーされてる男にホテルに連れ込まれました!」

 Nの慌てぶりは物凄かった。ドアの前に立ち塞がる私を押し退けようと掴みかかってくる。しかし並の男に負ける私ではない。
 ドアから逃げることを諦めて、今度は窓を開けようとする。しかしラブホテルの窓は全開にはならない仕様になっている。
「なんでこんなことになるんや!」
 情けない悲鳴を上げて部屋中をウロウロ歩き回り始めた頃、パトカーが到着。ジジイストーカーはあえなく御用となった。

 私の事情聴取には女性の警官が同席してくれて助かった。Nから送られた大量の卑猥な写真付きのメールを見るなり「これは悪質です!」と憤慨してくれた。
 今回は同意の上でホテルに入ったということで処罰はなしだけれど、次にNが私に接近した場合は逮捕になるということで片がついた。余談だがそのときにNの実年齢が64歳だということがわかった。本当に親子程の年の差がある。
 厳重注意ということで特に家族に連絡が行ったりもしないので、私としても助かった。

 ここで困ったことになった。Nの車でホテルへ行って、パトカーで警察署まで来たので帰りの足がない。夫に頼むわけにはいかない。電車で帰ろうにも最寄りの駅から待ち合わせた駐車場までが遠い。電車代とタクシー代を払えるだけの十分な所持金もない。
 というのは口実で、本当は彼に会いたかっただけかもしれない。彼は快く迎えを引き受けてくれた。
 彼の仕事終わりまで近くのショッピングセンターで時間を潰していると、心配そうな面持ちで彼はやってきた。
「大丈夫か?」
「うん。ジジイ警察に突き出してやった」
 笑顔で言う私に、彼は少し複雑な表情を見せて言った。
「とにかく無事でよかった…」
 そして私を車に招き入れると、優しく頭を撫でてくれた。
 彼がそばにいると、なんだか安心する。ずっとこの人のそばにいたいと、心から思った。