親への反抗心、寂しさと向き合うこともせず、何かを変えようとする意思もなく
ただふたりで過ごす時間だけは愛に満ち溢れていると思い込もうとしていた若いふたりに
その愛が本物なのかどうかを試すかのごとく、運命の扉が開く。
―――ALIの妊娠。
体の異変にALIはすぐに気がつき、マサにも誰にも打ち明けず、ひとり産婦人科へ向かった。
新しい命の誕生を喜ぶ余裕などあるはずもなく
ただ怖い、どうしよう大変なことをしてしまった、そんな自責の念にうちのめされ涙があふれた。
大学は?親は?マサは?
そして何より、この命は・・・・?
医師に渡された小さなアルバムには、初めて見る自分の子宮と、その中にぽつんと写る小さな卵。
来週には心拍音も聞けますよ
優しそうな女医はそう言って、ALIにそのアルバムを渡したのだった。
泣きはらしたまぶたに気付いたマサはすぐに何かを感じ、問い詰めた。
「妊娠してしまった・・・・」
二人にとってそれは
初めて現実と向き合わなければならない淡い恋物語の終焉を意味した。
「・・・ALIはどうしたい?」
震える声でマサは聞いた。
今まで二人の会話の中には
ずっと一緒にいれたらいいねという言葉は何度か出てきていたけれど
それは何の責任も伴わない、ただ恋をする空間を彩るための言葉で
結婚や、出産そんな具体的な話につながりもしない甘く軽い呪文のようなものだった。
「・・・ALIは家族が欲しい。」
命の重さ、愛の意味、そんなことは何もわからないけど
そうだ、私ずっと家族が欲しいって思ってたんだ―――
ALIは自分の言葉で初めて自分自身が何よりもこの命を必要としていることを認識した。
ALIの言葉にマサは嬉しそうにつぶやいた。
「俺も・・・家族が欲しい。」
それが単なる家族ごっこの延長だったのか
それとも確かに愛が存在していたのかはわからないけれど
あの時二人の中に「中絶」という選択肢は存在しなかった。
中絶する必要性が見えなかったのだ。
私たちは、家族が欲しいと思っている。けれどそれはまるで現実的ではなくて
まだ若く、おまけに学生と無職という経済力の全くない親の間に授かった命が
これから先どれだけ苦労することになるのか
その苦労を背負うだけの責任感が果たして自分たちにあるのだろうか
そんなことを冷静に考える間もなく
ALIとマサはただ自分たちの絆がはっきりと目に見える形で産まれてくる喜びに浸っていた。
早すぎた結論は
その後ALIとマサの間にも、そしてどちらの親の間にも大きな嵐を巻き起こす。