マサの計画では
前から言われていた父親の事業を引き継ぐ事を条件に
ALIとの結婚を認めてもらう、というものだった。
「ALIと、おなかの子のために頑張るよ。」
でも結局は、父親の会社で働くという
一番自分が苦労しなくてもよさそうな環境を彼は選んだのだが・・・
家に寄りつきもしない息子の突然の来訪に
彼の両親は何か良くない予感をうすうす感じ取ってはいたようだ。
呆れたり騒いだり時に難しそうな顔をしたり悲しんだりもしていたが
結局はマサの思惑とおり
会社を引き継いで
さらに同居するという条件ならば結婚は認めざるを得ないという結論に至った。
マサのお母さんは話し合いの間中泣いていた。
そして
「ALIさん、ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・」
そう何度も頭を下げていた。
あなたの人生を台無しにしてしまってごめんなさい、と。
ALIは自分たちの決断をそう反対されることもなく
また、住む場所も働くところの心配もしなくて良くなったので
マサの母親の涙とは対照的に
これからの結婚や出産という出来事に胸が躍る気持ちだった。
ただひとつ気がかりなのは、ALIの両親について。
まだ彼らは何も知らない・・・
真面目に大学に通っているはずの娘が妊娠し、そして結婚も勝手に決めてきたとなると
どんな反応を示すのか、考えるのも怖かった。
そしてALIは、随分と出入りしていなかった実家をたったひとりで訪れる。
千代と仁の暮らす、あの家へ。
「ママ、ALI、赤ちゃんが出来たの。」
そう切り出せたのは仁が酔って寝入ってしまい
夕飯の片付けも終わり千代とふたりお茶を飲んでいた時のことだった。
それまで大学の話も友人の話のひとり暮らしの様子も全てあいまいに誤魔化してきて
ようやく本題に入れたのは深夜を回っていた。
「・・・・・・堕ろしなさい。」
相手を聞くわけでも、経緯を聞くわけでもなく
ALIと目を合わせることもしないままはっきりと千代はそれだけを口にした。
「そんな勝手なまね、許されるわけがないでしょう。
いい?明日病院に行って、すぐに手術の手配をしましょう。
それからもうひとり暮らしは許さないわ。今すぐこの家に戻るのよ、わかったわね!?」
それだけは、嫌だ。
とALIは硬直した。
堕ろして、そしてこの家で暮らす?どうして話がそうなるのか混乱したままALIは叫んだ。
「嫌よ、絶対に産む!!
相手だって相手の両親だって喜んでくれているのに、どうしてママだけ反対するの!?」
千代は不思議そうな顔でALIを見つめていた。
「・・・相手の両親?
ALIはママに一番先に相談したんじゃないの?
喜ぶなんて順番が違うでしょう!!
人の娘を勝手に妊娠させて喜ぶなんて頭がどうかしてるわ!!」
千代の気持ちは母親として当たり前のことだった。
ALIはどこかで怖かったのだ、千代の前では自分の気持ちを押し通す自信などまるでなかった。
だから、マサの両親を味方につけてそれから事後報告という卑怯なやり方をした。
この子は事故みたいに芽生えた命じゃない
この子はマサにも、そしてマサの両親にも望まれて生まれてくるんだという後押しがなければ
自分の犯した過ち、千代への罪悪感に負けてしまいそうだった。
「相手の人も、両親も挨拶に来たいって言っているんだけど・・・」
千代は泣いた。ALIの肩をぐらぐらとゆすって嗚咽した。
「私は、あんたを10代で妊娠させるために今まで頑張ってきたんじゃないわ。
ALIにはちゃんと大学へ行って
一流の企業に就職させて、恵まれた相手と結婚して
何の苦労もない日のあたる人生を歩ませたかっただけなのよ!!!!」
千代の涙がALIの膝にぽたぽたとたれ落ちて、滲んでいく。
ALIは返す言葉もないまま、ごめんなさいとひたすら心の中で涙した。