千代は仁にALIの妊娠を打ち明け、どうすべきか相談をした。
仁は驚きもせず無愛想に
「本人が産みたいと言っているんだから産ませればいいじゃないか。
どうなったってALIが自分の決断に責任を持つしかないだろう。」
とひとこと言っただけだった。
ALIの人生など知ったこっちゃない、彼の本音はそれだけだ。
「あなたはALIの人生がどうなってもかまわないと言うの!
親が正しい道へ戻さなければ、あの子はこれからどんどん堕落していくわ。
私は中絶させて全てをなかったことにして
この家でいちから教育し直すつもりよ。それがあの子のためなんだから。」
仁はALIに何も言わなかった。
ただうさんくさそうに食卓に久しぶりに現れたALIの存在も無視し
自分には関係のない話と、避けているのは伝わった。
千代は毎日毎日病院に行くようALIを責め
挨拶に来たいというマサやマサの両親からの電話もことごとく切り
ALIはしばらくの間実家に軟禁状態となった。
そんなある夜、ALIは千代から悲しい話を聞くことになった。
「ママはね、ALIの妹か弟になるはずだった・・・
パパとの間に出来た赤ちゃんを堕ろしたことがあるのよ。」
「ど・・・どうして・・?」
「ALIが兄弟はいらない、とそう言ったの。
その時はそれを理由に手術を受けたけれどでも本当の理由はきっと違っていたわ。
・・・パパとの未来に自信が持てなかったの。
子供は何もかもが揃った条件の中で育てられることが一番幸せだと思う。
私はあの時中絶という決断を選んだことを後悔はしていないわ。
もしあの時産んでいたら、ALIはもっと寂しくてつらい目にあっていただろうし
その子だって愛人の子供としてきっと苦しい思いをしていたと思うの。
今、パパが離婚できなくて裁判で大変な目にあっているでしょう?
こんな状態になることを予想はしていなかったけれど
でもやっぱり産まない方が良かったって事も実際にはあるのよ。」
ママが中絶した事実をその時初めて聞いた。
そして自分がそんな残酷な言葉、兄弟をいらないと言ったなんて。
あの時と同じように、私は自分の保身のために命を犠牲にする?
そういう命もあるってことをママは言いたいの?
「そんなの、それはママが愛人だからでしょう?
私は違う!彼は私との結婚を望んでいるのよ!」
「だけど、子供は今じゃなくても産めるのよ。
それにあなたはまだ子供だわ
これからたくさんの事を経験してたくさんの人と出会って
結婚は出産はそうやって世の中を見る目を養ってからすべきことなの。
中絶を後悔することはあるかもしれない
だけど産んでから後悔したってどうしようもないのよ。」
「じゃあ、ママは私を産んで後悔したって言うの?違うでしょ?」
千代が話せば話すほど、ALIの心はまっすぐに出産に向かっていく。
整った環境で産むことが、子供にとって一番いいことなのはわかっている。
だけど、幸せな環境に産んであげられなくても
そのあと子供と一緒に幸せな環境を作り出せることは可能じゃないか、
私はこの子を産んで、そして自分も子供も幸せになっていきたいんだ。
あの時のALIは、とても身勝手で、子供さえ産めば自分もマサも幸せになれると固く信じていた。
人が人を育てるその大変さ、一生続く親としての責任、子供の未来
何も考えずにただこの命を愛しい、それしか見えなかった19の秋。