塾のおかげか、仁の徹底した学歴主義の賜物か
それともALIの意地のせいか・・・
ALIは、中学をまともな成績で卒業し、無事高校への進学を果たす。
仁は自分の母校であり誇りともしているある進学校への受験をしつこく奨めていたが
その高校は仁の実子たちの母校でもあり、ALIは行く気にならなかった。
ALIの選んだ高校は自宅からは随分離れた場所にあり
電車やバスを乗り継ぎ、往復にも時間がかかるので
家にいる時間が必然的に少なくなる。
レベル的には仁の奨めた高校よりは劣ってはいたが、
それでも進学校であることには変わりなく
ALIは、通学時間を見越してわざわざその遠い学校に通うことにしたのだった。
千代はとても喜んでいたし、知り合いや、近所の人にもその吉報を言いふらしていた。
ALIの家は、近所ではとても浮いた存在であった。
深夜遅くまで営業していたビデオ店、店の前にはガラの悪い中高生がたまり
放置自転車や、タバコの吸殻。
それに加えて、「水崎・石坂」のふたつの姓が並ぶ表札。
千代は囲われ者、あの二人はただならぬ仲・・・
彼らの噂は近所の井戸端会議のかっこうのネタだった。
千代はそんな噂など気にも留めぬ様子で、
町内の集まりにもゴミ拾いなどの行事も参加していたし、仁の多額の寄付もあり
表立って苦情を言う住人はいなかったが、白い目で見られていたことは事実だった。
ALIがあの高校へ合格した・・・千代にとっては自分の子育てを誇りに思っただろうし
その高校の制服を着て颯爽と歩く娘の姿は
近所の白い目もくつがえすほどの威力があるように思えたのかもしれない。
とにかく千代は、ALIよりも喜んでいた。
そんな卒業が間近にせまったある日。
ALIの中学校の担任は、
「両親への感謝の手紙」というイベントを、卒業式のサプライズとして提案した。
生徒ひとりひとりが両親への思いを手紙として書き綴り、それを預かった担任が
卒業式に来てくれたそれぞれの両親に手渡すというものだった。
いろいろあったけれど・・・私も大人にならなくちゃ・・・卒業できたのは両親のおかげ・・・
ALIは、ある決意を胸に一文字一文字丁寧に手紙を書いて、担任へと手渡した。
しかし、その手紙が開封されることはなかった。
仁の思いつきで突然決まった海外旅行に、千代もついて行くことになり
ちょうどALIの卒業式と日にちが重なってしまったのだ。
その渡航先はとても寒い地域だったらしく
千代は仁に毛皮をプレゼントしてもらうことになっていた。
贈られた毛皮には「T.M.」―――――水崎千代のイニシャルが刺繍されていた。
まだ籍も入っていないのに気が早いわね、
そう照れながら嬉しそうに旅行の準備をする千代に卒業式に来て欲しいとは言えなかった。
一人で迎えたその卒業式のあと
ALIは担任の先生に呼び出され自分の書いた「両親への感謝の手紙」を渡された。
「おかあさんが来られないの、残念だったわね。
うちへ帰ったら、ちゃんと渡すのよ。とてもいい手紙だったわ。」
おかあさんがうちへ帰るのは3日後です。とは言えず、
ALIは笑顔で担任に今まで世話になったお礼と別れの言葉を述べてその場を立ち去った。
手に、きつくその手紙を握り締めて・・・
ALIは家路の途中の用水に、迷うことなくそれをビリビリに引き裂き捨ててしまった。
春にはまだ早い桜の花びらのごとく
その手紙はALIの感謝の気持ちとともに、さらさらと流れて沈んでいったのだ。
~パパとママへ~
今まで育ててくださってありがとうございます。
卒業の日にあたり、私の感謝の気持ちを伝えたく、手紙を送ります。
ママには口止めされていたけど
ALIはパパが本当の父親ではないことをずっと前から知っていました。
血のつながらないALIを本当の子供のように、暖かく時には厳しく、育ててくれたこと。
とても言葉では言い表せません。
かわいらしい態度でなかった時もあったかもしれないけれど
心の中ではいつも感謝していました。
ALIを、産んでくれて、そして愛してくれて、ありがとう。