或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -24ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

高校生になったALIは、さっそくバイトを探し始めた。

5時から10時までの近くのラーメン屋でのバイトに

人手のない時は千代のビデオ店で12時まで働いていた。

理由は、家にいたくないことに加え

親から小遣いが与えられなかったALIにはとにかくお金が必要だった。

仁の母校には行かず、わざわざ遠い高校を選んだALIに

定期代ぐらい自分で稼げと言ったのは仁だった。

定期代の他にも、弁当を作ってもらえなかったALIには学食代

その頃周りが持ち始めたポケベル代

それに友達と遊びに行くとなったらカラオケ代なんかも必要だった。

進学校だっただけに、クラスメートは中流かもしくはそれ以上の家庭の子が多く

バイトをして定期代を自分でまかなっているなんていう生徒はきっとALIぐらいだった。

友達は、親に言えばお小遣いは普通にあたるし、

バイトは勉強の妨げになるからしなくていいと禁止されていた子がほとんどで

逆にバイトができるALIがうらやましいと言われたことさえあったが

こっちは月に最低でも5万必要で

欲しい物のためというよりは生活がかかっているものだったのだ。

バイト先が飲食店だった事はラッキーだった。

まかないが出ることで、その頃から夕食も家で取らなくて良くなったし

朝は電車に乗り遅れるからと言って

早めに家を出て、コンビニでパンやカロリーメイトで空腹を満たした。

家族と言っても高校の頃からは、食事のほか洗濯も別々になっていたから

内情はただ同じ屋根の下で寝るだけの間借り人だった。





仁と千代が恒例の不倫旅行に出かけると聞けば

彼らが出かける何日も前から

バイト先で知り合った他校の男子や、年上の大学生と朝まで遊ぶ計画を練る。

それはALIの女友達も含め大勢で騒ぐのが目的だったが

海へ行ったり、肝試しをしたり、ファミレスで朝までしゃべってるだけの時もあった。

年上の人はだいたいが車を持っていて

彼らが運転する車に揺られ流れる夜景を眺めていると

このまま家に帰りたくない、時間が止まればいいのに、そう現実逃避する自分がいた。

相変わらず家族とは時間どころか感情すらも共有しない誓いをかたくなに守っていたALIは

早く大人になりたい、家を出たい、そればかりを考えていたし

それと同時に

当時の千代の微妙な立場を考えると

もしそんな事が現実に起きたらそれこそ大変な事になるのに

旅行の帰りに事故にあってふたりとも死んでくれないかな・・・

そんな恐ろしい事を平気で願うような高校生になっていたのだ。




自分でも気が付かないうちに抑制され蓄積され続けた寂しさは

彼氏という存在が出来たことで爆発した。

ALIの好きになる人は決まって片親だとか、親が不仲だとか、なにかしら暗い背景を負う人ばかり。

もちろん、普通の家庭に育った人に魅力を感じないわけではなかったが

なんとなく引け目を感じたり、どうせ分かり合えないだろうという思い込みが拒絶反応を示した。

ALIはあまりそういう人とは関わりを持たないようにし

暗い影を漂わせる相手ばかりを選んでいた。

相手の家庭環境が複雑であればあるほど

無条件にALIは共鳴し救いを求めるように簡単に心を預けた。

いったん心を許した相手には、異常なまでに捨てられないための努力をしてしまう。

頑張らなければ飽きられてしまう、尽くさなければ捨てられてしまう

いつもそんな不安と隣り合わせ。

心を許せる存在のはずだった恋人はいつのまにかお互いにとって重荷になり

幾度恋愛をしても相手を換えてもALIの心の空洞は深く大きくなっていくばかりだった。

自分の気持ちを素直に言えない

して欲しいこと、して欲しくないこと、束縛や嫉妬、愛情を伝えるすべがわからないALIに対して

<何を考えているのかわからない、ALIの気持ちが重い>

付き合った彼氏はたいがいそう言って去っていった。





あの当時のALIは

恋愛することで現実から目を背けていた。

ただやり場のない寂しさを紛らわしていた、駆け足で過ぎた幼稚な恋。

人を愛する意味やその深さも悲しみも、知らなかった。

あじさい