或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -23ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

ALIが高校生の頃

千代の長女でありALIの姉であるエリーが離婚し、日本に戻ってきた。

新しい再婚相手と、その間に生まれた幼子、そして前夫の子を連れ

着のみ着のまま行くところがないと言って、千代に泣きついてきたのだった。

エリーは中学を卒業した後

自分の生まれ育った母国のある南米に語学留学をし

ハイスクールを卒業して間もない時期に現地の警察官と結婚をした。

壊れた夫婦をずっと見て育った彼女は人一倍家庭に対する憧れが強かったのだろう。




千代は、いつもエリーからの手紙や写真、電話を楽しみにしていた。

エリーの声はいつも明るく

その幸せな空気は受話器を通してでも千代には充分伝わっていた。

エリーには家族を省みなかった父親や置いて出て行った母親に対する恨みはまったくない。

ただ私を生んでくれてありがとう、私は今こんなに幸せよ

いつもそう口にするのは

彼女のおそろしく前向きで楽観的な性格がそうさせていたのだと思う。

夫と夫の家族に守られ、子宝にも恵まれ、平和で仲良く暮らしているはずだった。





それがある日突然

まだ5歳にもならない愛娘を夫の実家に預け日本に帰国した。

離婚したのだと言う。原因は夫の浮気だった。

夫は謝罪し、復縁をせまっていたがエリーはそれを拒み慰謝料に家と親権をもらい

自立するまで子供を預けるという約束のもと

きちんとした通訳の資格を得るため東京の専門学校に1年間通うことになった。

それなのに離婚したてで傷心だった彼女を誘惑したのは

同じ南米出身のある出稼ぎ労働者だった。

寂しかったといくら言い訳したとしても一児の母にしてはエリーの行動はあまりに軽率すぎた。





その出稼ぎ労働者、後にエリーの再婚相手になる男トムには妻子がいた。

本国の両親と、自分の妻子のために出稼ぎにきているはずだったトム。

離婚して、愛娘のため自立を求めて東京に来たはずのエリー。

恋に落ちてはならぬ二人は、誰の目も届かない日本で堂々と交際し

私たちが結婚したら元夫のくれた家で一緒に暮らしましょう

と仲良く南米へと戻ってきたのだ。

復縁を期待し子供とエリーの帰りを1年ひたすら待っていた元夫は

新しい男と戻ってきた彼女を許すはずがなく

結局慰謝料という名目で貰えるはずだった家は売却され

その金額の半分がエリーの手元に残った。

まだ子供の親権を奪われなかっただけ良かったのだろうが

エリーの子供は、母親と離れた1年の間に夫の実家でめいいっぱい甘やかされ

まるで他人の子供のようにわがままで、手がつけられない子供に変貌してしまっていた。

トムはさっさと自分の両親と妻子に別れを告げ、エリーと彼女の子供と暮らし始めた。

ほどなくしてトムとの間にも女の子が生まれて、彼らは4人家族になった。

エリーが元夫からもらった現金はトムには魅力的だったし

はなっからエリーがもらえるだろう家のことも想定して彼はあえて彼女を誘惑したんだと

そう思われても仕方のないトムの行動。


彼はそれを元手にバーを開いたが結果それは見事につぶれてしまい、多額の借金が残った。

生活が立ち行かなくなった彼らは千代を頼って日本にやってきた。








歴史は繰り返す。

エリーの人生は、まるで父親の正雄そっくりだったのだ。
あじさい