或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -21ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

エリーのサリーもナオも、それぞれ自立しあとはALIの将来だけが気がかりだった千代。

中学の頃はあんなに自室にこもって勉強に打ち込んでいた娘は

高校に入ってからというもの

家にはあまり寄り付かず、バイトや遊びに行くばかりで

まったく外で何をしているのか想像もつかない。

この家にいづらいのは仕方の無いことだと千代は半ばあきらめの気持ちでいた。

そして、ALIの行動を物語るように成績だけはどんどん下がり続けていった。

その頃千代はもうALIに対して勉強を強制しなくなっていた。

ある日、珍しく千代とふたりだけの食卓の場で彼女はALIに言った。


    「いい大学に行こうなんて思わなくていいわ。

     これ以上きょうだい間で学歴の差がついたら、エリー達がかわいそうだし。

     それにきっとパパはALIにお金を出す気はないだろうから。」




前々から自分の母校を選ばなかったALIを苦々しく思っていた仁は

常々大学は自分の母校に行けと行っていた。

そうすれば将来自分のように偉くなれるのだ、と。

両親に対してすでに軽蔑の念を抱き始めていたALIは、それを聞き流していたし

またそれだけの偏差値もすでに持ち合わせていなかった。

進路を決める時期になると仁は


     「自分の母校以外の大学には受けさせない。

      それ以外のところに金を出す気はない。」



とALIに言った。

ALIはまたか・・・と思った。

この人はいつだって自分の価値観が一番正しいと思っている。

実の子には色んな大学を自由に選ばせていたのに

愛していないALIには選択肢すら与えないのか。

その頃ALIは将来自分の就きたい職業も視野に入れ

ある大学の芸術科に進みたいと思っていたので勇気を出して仁に言った。


       「そんな私立の三流大学など、受験料を出すのももったいない。

        よく聞け

        俺はお前に自分の出身大学になら行かせてやると言ってるんだぞ。

        それをありがたく思ってどうぞパパの学んだ大学へ行かせて下さいと

        土下座するのが筋じゃないのか。」 




この言葉にALIは初めて、今まで出さなかった感情をあらわにし仁に刃向かった。



        「土下座してまで行かなきゃならない立派な大学なの?

         ALIはパパの生き方もやってることも立派なんて思ったことないよ!」

         


仁はみるみる顔を真っ赤にし、ずかずかと近づくとALIを押し倒しその上にまたがり

顔を殴り続けた。抵抗するALIの髪を引きずり回し、罵声を浴びせかける。

まぶたが切れ流血してもなお、ALIは仁をにらむ事をやめなかった。

床には引きずられて抜けた髪や

抵抗したせいで破れた服の一部やちぎれたボタンが散乱していた。

それでもまだALIの腹を蹴り続けるので

いつもなら仁の怒りがおさまるまでただ黙って見ていただけの千代が止めに入った。


       「もうやめて!ALIが死んじゃうわ!」


仁の怒りはまたその言葉で爆発した。

 
       「お前がいつもかばうからこんな性根の腐った子供になるんだ!

        この低学歴親子がっ!!!」


その言葉に千代はありったけの声で叫んだのだ。


       「低学歴でも何でもいいじゃない!

        もうALIの進路にかまわないで!」



身を挺してALIにおおいかぶさる千代に、暴力の痛みからくる涙とは別に

熱い何かがALIの目からこぼれ落ちた。

ALIの代わりに今度は千代が蹴られ始めたが、しばらくすると自分だけ悪者になった事が

おもしろくなかったのか、仁は「もう知らん!!」そう吐き捨て部屋を出て行った。


      「ママ?ねぇ?もうこんな家出よう・・・・

      高校卒業したらALIがすぐに働くから、二人で暮らそう・・・?」




泣きながらALIは千代に訴えた。

それは初めて自分のことをかばってくれた千代に感動してつい出てしまった言葉。

ずっとずっと昔から言いたくても言えなかった言葉。

今ならきっと叶う。二人で昔のように暮らせること・・・





            「ごめんね、ごめんねALI。

             それは出来ないの、ごめんね・・・・」





あの時、確かに千代はALIをかばった。

仁に蹴られてでもALIを助けようとした。

ALIの方が愛されているはずなのに、どうしてママは家を出ようと言ってくれないの・・・

どうして、どうして・・・・


その答えがわかるのはずっとずっと後になってからの事だった。

あじさい