或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~ -20ページ目

或る愛のうた~不倫、愛と憎しみの残骸たち~

不倫、生と死を見つめる、本当にあった壮絶な話

結局ALIの進路は、あの事があって以来仁は口を出さなくなった。

千代は言った。

私立の大学、それも仕送りなんてとても仁の協力なしではまかなえそうにない。

ただ近場の国立の大学なら自分の経済力でなんとかできるだろう、と。

それも、もし受かったなら

この家を出て自分の持っているサンヒルズ南で独り暮らしをしなさい、と。

千代にはもう

この家族を継続していくのが誰のためにもならない事がよくわかっていたから

あえてALIに家を離れるよう、今は居住者のいないサンヒルズ南の鍵をALIに渡した。




サンヒルズ南は、千代が初めて自分で購入して得た財産であり

ALIにとっては幼い頃

母と二人だけで暮らした優しい思い出がいっぱいつまっている場所だった。

千代の決断を受け入れ、ALIは志望大学への入学をあきらめて、国立の大学を受験した。




やっとこの家から離れることが出来る。

邪魔者だったALIさえいなければ

仁のイライラも消え、無駄な暴力もなくなり千代にも優しくなるだろう。

これが私たち3人にとって一番いい方法なんだ。

離れてしまえば、今まで見えなかった両親の良さもわかるのかもしれない。

ALIは、新しく始まる生活に胸がときめいた。




ただ問題は

家賃こそないものの、生活費は全て自分の稼ぎでまかなわなければいけない事だった。

高校時代に比べて、光熱費から食費そんな物にいったいいくらかかるのか

まったく予想がつかなかった。

3年間勤めあげたラーメン屋は、通えそうにない距離の上

きっとそこの時給だけでは生活できないだろうと思われた。

ALIは大学にもサンヒルズ南にも近いところでバイトを探し始めた。

短時間で稼げて、体も楽なところ。

まず初めにえらんだのはテレホンアポインターの仕事だったが

売りたくもない商品をマニュアル通りに勧めたり

話の途中で電話を切られたりする事が精神的につらくなり

時給こそ良かったがALIには向いてない職種だった。

家庭教師は移動手段として車がなければ難しい。

ALIはまだその当時教習所に通えるお金なんて持っていなかった。





結局ALIは昼は大学生、

そして夜はコンパニオンという生活を選んだ。

大学の友人に勧められ、始めたコンパニオン。

きれいな衣装を身にまとい

笑顔を振りまき晩酌するだけで2時間6000円は

当時のALIにはとても魅力的なバイトに思えたのだった。

場所は繁華街のホテルの立食パーティもあれば、山奥の温泉宿に行く事もあったが

キャバクラと違い、かけひきをする必要もなければ

どんなに酒癖の悪いお客さんがいたとしても2時間我慢するだけで良かったので

わりと気楽にバイトをこなしていたように思う。

ただひとつ、同窓会などの席で、自分の親と似たような年齢の女の人が

お客さんの中にいる時は、とてつもなく気がひけた。


   
         「ご両親は、あなたがこんなお仕事していること、ご存知なの?」





そんな風に哀れんだ目で見つめられた時は、ALIの笑顔も凍りついた。

慣れないストッキングや、メイク、ひらひらの衣装や安っぽく光るアクセサリーは

≪こんな仕事≫、を自分に改めて実感させるものだった。


        「いいえ、親は知りません。

        ・・・ビールおつぎしてよろしいですか?」



それだけ言うのがやっとで、早くこの場から立ち去りたいとさえ思った。

コンパニオンのバイト仲間にはALIと同じ大学生もいたし、社会人からフリーターまで

様々な女の子が、時給の高さに惹かれて働いていた。

事務所にいったん集合して与えられた衣装に着替えたあと

現場までは若い男の子がワゴン車を運転して女の子たちを送迎する。

車内ではいつも笑いが絶えなかった。

彼氏の話、将来の夢、次のコンパに着ていく服のこと

他愛もない会話がそのワゴン車にはいつも響き渡っていたが

運転手のその彼だけはいつもひとり、自分の業務をもくもくとこなしていた。

たまに年上のコンパニオンにからかわれても、おどおどしながらかわしていた横顔をALIは

この空間に似合ってないなと、ぼんやり見つめていた。


あじさい