生活費のためコンパニオンというバイトを選んだALI。
ALIの目に留まったのは、ワゴン車に響く女の子たちの声も興味なさそうに
ただもくもくと彼女らを送迎する運転手、マサだった。
マサの第一印象は、どことなく寂しそうで決して他人を踏み込ませない伏目がちの瞳。
なにを考えているのか、どうして≪こんな仕事≫をしているのか、ALIは興味をそそられた。
仕事が終わったある夜、事務所から帰ろうとしたALIに
「送ろうか?」と声をかけてきたのはマサの方だった。
あの日は雪が降ると、事務所のみんなが話していた。
大学の友人がいる時以外、そういったコンパニオン達の会話に入っていけないALI。
バイトが終わったあと、手にしたお金でごはんを食べに行こうとか遊びに行こうという話になっても
そそくさと事務所を後にするのはいつもALIとマサの二人だけだった。
「送ろうか?」と階段を下りてきたマサに、ALIは迷いもせず「うん。」と返事をした。
「今日は雪が降るんだって、寒いから、家まで送るよ。」
ALIは初めてマサの話す長文を聞いた気がした。
事務所の近くの駐車場に停めてあったマサの車は、高級外車だった。
そう年齢の違わないマサがどうしてこんな高級外車を持っているのか
ALIはますます彼の不可思議さに興味を持った。
「オヤジの車なんだけど・・・」
そう言ってマサはALIを助手席に乗せ、雪の中ALIの自宅に向かったのだった。
沈黙が私たちを包んでいた。
ただ、ALIがぽつりぽつりと「そこ右。」と方向を指示していただけで。
雪はますます激しさを増し、沈黙ばかりが永遠に広がる気がしたその瞬間。
「あっ!!!!」 「あっ!!!!」
マサの車はスリップし、中央分離帯を突き破って回転し、反対車線へと飛んだ。
車が宙に浮き回転している間、きっと数秒ほどの短い時間に
本当に冷静にALIは「このまま死ぬんだな・・・」と思った。
―――どんな風に新聞に載るんだろう。
全然知らない男の子と事故で死んだなんて、ママはどう思うかな・・・
マサの車が反対車線の縁石にぶつかって停止した時
なんだか車はいろんなランプが点滅していたものの見た目はなんともなくて
とにかく命も無事で、思わずALIとマサは笑ってしまった。
「死ぬかと思った・・・ぷっ!!はは・・ははは!!」
今までの沈黙が嘘のように。
反対車線にもし対向車が来ていたら、相手車両をも巻き込みとんでもない惨事になっていた。
大事故から免れた若い二人は
車のドアを閉めても半ドアのランプが消えないのがおもしろいねと
言ってはまた笑った。
あの生死を共にした瞬間、マサはALIを見つめていたと言った。
俺なんかと一緒に死ぬなんてごめん、そう思ったと言っていた。
あの日から、マサは運転手のマサじゃなく、ALIにとって特別な人になった。