柚木麻子は 10年ほど前に本屋大賞7位選出の「ランチのアッコちゃん」を読んでから、新刊がでると全部ではありませんが、読むようになりました。でもここしばらくは 読んでもぐっとくるような小説には出会ってないような・・・(上から目線で)

 

一昨年読んだ「らんたん」は、母校、恵泉女学園の創設者河井道の半生を描いた大作でしたが、その後に読んだ「ついでにジェントルマン」は???でした。

 

本作も、「コロナ禍におけるSNS」のテーマは悪くないけれど、共感出来ない物語展開や主人公が多かったです。

 

「めんや 評論家おことわり」

今現在問題になっているネット社会での炎上がテーマです。ラーメン評論気取りの佐橋は 好き勝手な評論で女店主のラーメン屋「のぞみ」の評判をがた落ちにさせ、その後ネットで逆に叩かれ、今は引きこもりの日々。同じく佐橋によって人生を狂わされた人々が、「望み」で佐橋に仕返しをする話。

 

やられたからやりかえすのでは、確かに留飲は下がるかもしれないけれど、それは私たち普通の人間のレベルの話であって、私が読みたいのは、そんな復讐劇ではないのです。もっと別の展開で、自分が取った行動がどれだけその人の人生を狂わせる事になってしまうのかを、佐橋が自ら思い知る・・・そんな結末だったらと思いました。

 

「BAKERY SHOP MIREY’S」

カフェを開くのが夢と語る美令にと、それを応援しようとする秀美の物語です。美令がこれまで一度もお菓子を焼いた事がない!というところで「へっ?」となった私。 なのに秀美は、業務用のオーブンを買ってあげたりするのですが・・・。案の定無理やり贈ったオーブンは埃をかぶって、相変わらず夢だけ語る美令。こういう夢だけ語って、努力をしない人っていますね。それにしてもキャリアはあるくせに美令に入れ込む人を見る目のない秀美の事も、全く理解出来ない私でした。

 

「トリアージ2020」

未婚の母になろうとしている麻梨子は、現在7カ月。ひょんな事からSNSつながりの「よこちん」と会う事になって・・・。そこに「トリアージ」という20年も続く医療物の長寿番組が絡んで来て・・・。この物語もSNSで知りあった女性同士が、実際にあって・・・という話で、本作品中でいちばん素直な気持ちで読む事が出来ました。

 

「パティオ8」

大昔流行った中庭がある建物に暮らす人々に起こるトラブル。「パティオで子どもを遊ばせてうるさくしても大丈夫」という条件付きのマンションなので、どう考えても「子供がうるさい」と難癖をつけて来た101号室の方がおかしいとは思うのですが・・・。101号室男をやり込めようと結託するママたち。その方法に眼が点の私でした。

 

「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」

裏寂れた商店街によくある洋装店のお話。何年も店の展示も変わらず、お客が入ったところを見かけた事もない古色蒼然とした店構えの「ドゥリヤン」。もうすぐこの町を出て行く琴美は、その謎を解明するべく・・・。まあびっくりぽんな展開に口あんぐりの私でした。

 

「スター誕生」

Youtuberの老人しげるは、動画配信を生きがいとしている。落ち目の元アイドルのシンは 中年になった今仕事が欲しくて・・・。そこへネットでバズったワンオペ育児主婦ことMCワンオペを利用しようとして、逆に返り討ちにあってしまう話。

 

物語の前半と後半の話し手の視点が入れ替わる手法は斬新と思いつつ、少々違和感を感じました。誰でも気軽に発信出来るSNSだからこそ、発信者は気軽に書いたつもりでも、当事者は人生を狂わされてしまう事もあるのは本当に恐ろしい事。「デジタルタトゥ」という言葉があるように、一度ネットに流れてしまうと、永遠にネットの波間を漂い続けるわけで、私も「ブログ」と「インスタグラム」を書く時は、今まで以上に気を付けようと肝に命じました。