2024年の本屋大賞に輝いた「成瀬は天下を取りにいく」を読みました。宮島未奈氏はお初作家です。どっちかと言うかライトノベルテイストのアッと言う間に読める小説でした。「本屋大賞」というのが、他の文学賞と違うのは、全国の書店員さんたちが売りたい本を選出するということ.

 

なので過去の大賞受賞作に一貫性がないと思うのは、私だけでしょうか?もちろんほぼ全作がエンタテインメント系の小説なのは明白ですが、過去受賞作をみていると、ミステリ系あり、歴史物系あり、(いわゆる)文学作品系あり、ファンタジーあり、多種多様です。「謎解きはディナーの後で」を読んだ時は、「これが本屋大賞受賞作?と思ったりもしました。本作は、どちらかと言うと、そちらのライトノベル系の匂いがしたような・・・?

 

確かに成瀬あかりは、今までにないタイプの我が道を征くの主人公キャラで、面白く読みました。

タイトル「成瀬は天下を取りにいく」は 彼女の住んでいる滋賀が舞台ですが、内容を考えると少々大げさではないかと思いました。まだ読んではいませんが、シリーズ二作目の「成瀬は信じた道を行く」の方が、すんなりと受け入れられるような気がします。

 

否定的な感想ばかりで申し訳ありません。ではここから私なりの感想を・・・。

 

「ありがとう西武大津店」

「膳所(ぜぜ)から来ました」

「階段は走らない」

「線がつながる」

「レッツゴーミシガン」

「ときめい江州音頭」

の全6章からなっています。主人公は 滋賀県大津市に住む成瀬あかりです。頭も良くて何でもサラリで出来てしまう天才肌の女の子。それ故クラスから浮いていますが、そんなことを気に掛ける成瀬ではありません。その成瀬の中二から高三までの何という事もない出来事が綴られています。

 

サブキャラに、成瀬の幼なじみの島崎みゆき。この二人の親友でもない、かといってただのクラスメートでもない関係が、とってもいいんです。みゆき視点の章や、成瀬と高校で再会した成瀬を嫌いなクラスメートの視点、全国かるた大会で成瀬を見初めた男子高校生の視点、そして成瀬あかり本人の視点の最終章。

 

「ありがとう西武大津店」の章では、閉店が決まった地元のデパートへのカウントダウンに向けて、デパート前からの夕方のテレビ中継に毎日映ると決めた成瀬の奮闘振りや、「膳所から来ました」では、漫才の一大コンクール「M-1グランプリ」に出ると決めた成瀬が、島崎を巻き込んで地元の予選会に出る話…かと思えば、高校かるた大会で優勝を目指す話などなど。

 

まるで青年剣士?のような言葉遣いの唯我独尊の道を征く成瀬キャラを創作した時点で、この物語の成功は90%成功したと言っても過言ではないでしょう。情報過多過ぎて失敗する事ばかりを恐れて、何もしない現代の若者の真逆を征く成瀬あかり。そうです、彼女は今時ありえない「不携帯女子」、自分の意思でスマホを持っていないのです。

 

最後に一言、この本の影の主役が西武大津店なのは間違いありません。多分それほどまでに作者自身が、20208月いっぱいで惜しまれながら閉店した西武大津店へ多大なる愛着を抱いていたのだと思われます。