小川糸の「ツバキ文具店」シリーズ(「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」)の三冊目「椿の恋文」を読みました。「ツバキ文具店」では、鎌倉に舞い戻った鳩子が、稼業の代書屋を継ぐまでの先代との確執が描かれていました。

 

続編「キラキラ共和国」では、小さな女の子QPちゃんを、わけあって一人で育てているミツローとの結婚までを描き、そして本篇では、ミツローとの間に年子で蓮太郎と小梅(一人は早生まれなので同じ学年)をもうけた鳩子が、小学校に入学したのを機に、代書屋を復活させたところから物語は再開します。中学3年生になって反抗期真っただ中のQPちゃんとの関係に悩む鳩子と、先代かし子の秘めた恋が発覚したりと、今回は母となった鳩子の成長も見逃せません。

 

厳格だとばかり思っていた先代が、何と秘めた恋をしていたという衝撃。不倫に傷ついて鎌倉に戻った鳩子を叱責した先代は、自分の過去の事なんかおくびにも出しませんでした。ですが今の鳩子は そんな先代の過去を知っても反発するのではなく、受け入れて先代の事をもっと知ろうとするのです。

 

 各章は「紫陽花」に始まり「金木犀」「椿」「明日葉」「蓮」で終わる鎌倉の1年が手に取るようです。本書を読んでいると、鎌倉に実際にあるお店が出て来て、まるで自分が鎌倉の路地裏を歩いているような気分にさえなります。鎌倉!と言えば海!と思われがちですが、鳩子は言うのです「鎌倉に住む人は『海族』と鳩子たちのような『山族』に分かれるのだと・・・。なるほど・・・。

 

余命幾ばくもない母から結婚する娘への手紙や、高齢の父に運転を辞めさせたい娘からの依頼。若年性アルツハイマー病を患った自分への手紙に同性愛者の親へのカミングアウトの手紙などなど、今回も鳩子への代書の依頼はさまざまで、それを鳩子は依頼した人物になり切って代書して行きます。

 

本書には、ところどころに鳩子が依頼人から託されて書いた手書きの代書が、写真で差しはさまれています。ですが何といっても反抗期のQPちゃんへの受験当日のお弁当に忍ばせた鳩子の手紙が最高でした。

 

そして先代とその相手の美村龍三氏との書簡集には、想いのたけを相手に書き綴る「手紙」の意味を考えてしまいました。何しろ昔結構手紙を書いた私でさえ、今はめったに手紙を書くことは無くなってしまったのですから。たとえ書いたとしても、パソコンで打って、プリンターで印刷した「手紙」とは言えないしろものです。そう言えば「ツバキ文具店の鎌倉案内」という本が出てるようなので、さっそく図書館に予約しました。今度鎌倉に行く時の参考にしましょう。