木内昇の、戦中から戦後の困難期を乗り越えたある家族の物語「かたばみ」を読みました。この本がなぜ「本屋大賞」にノミネートされなかったのか、不思議に思うほどの感動作でした。かたばみとは、踏まれても踏まれても生えて来るあの小さな黄色い花をつける雑草(世の中に雑草と言う名前の植物は無いと言いますが)の事です。木内昇の小説は13年ほど前に「茗荷谷の猫」読んで以来ですが、女性だという事をすっかり忘れていました。

 

主人公の悌子(ていこ)が まさしく「竹を割ったような」という表現がぴったりの、まっすぐでひたむきな性格で、本当に素敵な女性でした。と言っても体格は、男にも負けず劣らずの大女(こんな表現で書くと、今時セクハラとか言われそうですが)で、やり投げでオリンピックを目指す有望な選手だったのです。

 

昭和18年、肩を故障してオリンピックの夢は諦め、国民小学校の代用教員として働く事になるあたりから物語は始まります。悌子には、六大学野球のエースとして活躍した幼馴染の神代清一と言う結婚相手がいて・・・と言うのは、悌子の一方的な思い込みで、清一は、悌子とは真逆のおしとやかな女性と結婚したかと思うと、すぐに戦場に旅立って行ったのでした。

 

このあたりから戦況は著しく悪化するばかりで、東京郊外の町で下宿生活を送りながら、代用教員として子供達を教える悌子やその子供達、そして下宿先の人々の暮らしにも、戦争は容赦なく襲い掛かって来るのです。戦地で父親が亡くなった生徒や、空襲で家を焼け出されたり、負傷したり・・・。そして悌子にも、引率中の空襲で生徒が犠牲になってしまうという悲劇に見舞われるのです。

 

そんな中で、いつも彼女を見守ってくれていた人と結婚した悌子は、夫と共に必死になって戦時下の中を生きて行くのです。分け合って親を亡くした子供(ネタバレになるので書きませんが)を養子にした悌子夫婦の愛情あふれる育て方、それでも自分は 悌子たちの子供ではないと知った時の子供の葛藤など、わかってはいても涙・涙でした。

 

時に後先を考えずに行動する悌子にハラハラしながらも、下宿先では みんなの大黒柱的存在で頑張る悌子を応援せずにはいられませんでした。戦中戦後の物資の乏しいあの時代を、たとて血のつながりは無くとも、「かたばみ」のような屈強さで生き抜いた悌子たち(それは当時の日本人がみんなそうであったに違いないのですが)の「家族の物語」でした。