2023年4月から始まったTBSラジオの沢木耕太郎の「深夜特急」のオリジナル版完全朗読?が、1月31日をもってとうとう終わってしまいました。月曜から金曜までの毎夜(23時から25分間)、俳優斎藤工の深夜時間帯にふさわしいハスキートーンの朗読は、寝ながら聴くのにピッタリでした。と言っても私は、ネット配信アプリ、ラジコで聴いていましたが・・・。

 

第1巻 香港・マカオ(巻末に山口文憲氏との対談を収録)
第2巻 マレー半島・シンガポール(巻末に高倉健氏との対談を収録)
第3巻 インド・ネパール(巻末に此経啓助氏との対談を収録)
第4巻 シルクロード(巻末に今福龍太氏との対談を収録)
第5巻 トルコ・ギリシャ・地中海(巻末に高田宏氏との対談を収録)
第6巻 南ヨーロッパ・ロンドン(巻末に井上陽水氏との対談を収録)

 

私が持ってる単行本は 全3巻でしたが、文庫本では全6冊にして出版。ラジオ番組は、当初半年の予定が最終的には10カ月になり、最終章の頃に入ると「もう番組が終わってしまう」ととても寂しい気持ちになりました。

 

私的には、沢木氏がどんどんカジノにはまっていく1~2巻の香港マカオあたりの朗読を、とても懐かしく聴き、3~4巻あたりは、少々中だるみっぽく、1週間分をまとめて聴いたりしていました。そして5~6巻のトルコ~ポルトガル、スペイン、パリ、ロンドンへのラストは、いろんな想いを重ねながら聴き終えました。

 

私自身は30年前に読んだ「深夜特急」の中身をすっからかんと忘れており、当時何気なく読んだ建築家の磯崎氏とは、あの有名な磯崎新の事だったのか!とびっくりしました。最近レトロ建築に興味があり、磯崎新氏の名前も知るようになったので。コンペでは丹下健三の設計が採用されたあの東京都庁も 磯崎氏は参加して残念ながら不採用だったのです。

 

そしてテヘランで、沢木は磯崎夫妻と再会し、奥様宮脇愛子氏(彫刻家)から託された手紙に、私はがぜん興味深々に・・・。宮脇愛子氏のいわば美術の師に当たる「先生」の日本で知り合った愛人(ゲンチャイ仮名?でトルコの帰郷した)に、トルコへ行ったら、ぜひこの手紙を見せて、先生の死を伝えてほしいと。そのミッションを果たした沢木は、やがてローマに住む先生の未亡人にも会いに行くのです。この辺の下りは まるで「初めて読む小説」のように面白かったです。気になって調べてみたら、どうも「先生」というのは ローマで客死した新潟出身の画家阿部展也氏の事らしいです。

 

ずっと不思議に思っていたのは、単行本「深夜特急」の1巻2巻が、新聞連載終了と同時に1986年出版されているのに、第3巻は 6年後の1992年に書きおろしとしてようやく出版されたという事。「深夜特急」のファンは、ずっと第3巻が出るのを待っていたのに・・・。出版に当たっては、ゲンチャイなど登場人物の了解をもらってから出版する事という約束事があったので、それが理由だったのかもしれません。

 

話はそれますが、先日50年前年(1974年)の「三菱重工連続爆破事件」の犯人の一人桐島聡容疑者が罪を告白し亡くなりました。くしくも沢木氏が日本から香港へ向けて旅に出たのが同じ1974年。なんか感慨深いものを感じました。そして日常の人生から逃れるために旅に出て来た沢木が、長すぎる最後の方は、「旅の終わり」を探し続けて旅をしていたのが印象的でした。

 

 

「より美しく」
 私の「深夜特急」の旅も長かったが、それを文章にし、単行本で三冊、文庫本で六冊にもなる紀行文を書く作業も長くかかった。 そしていま、その「深夜特急」のすべてを朗読するというとてつもない作業が終わろうとしている。
 毎夜、落ち着いた低く柔らかい声がラジオから流れてくる。私は、その声に乗せられた「深夜特急」を聞きながら、何度、これが自分の書いた文章なのだろうかと不思議に思ったものだった。
 より楽しく、よりスリリングに、より滑稽に、より物悲しく、そして、時には、より美しく聞こえてきたからだ。 ありがとう、斎藤工さん。
                                                                                                  沢木耕太郎