恵泉女学園の創設者河井道の半生を描いた大河小説です。

女性初の留学生としてアメリカで学び、女子英学塾(津田塾)を開いた津田梅子に指示し、自身もアメリカに留学し、キリスト教の教えを学んだ河井道。独身を通した道は、シスターフッドの関係にあった渡辺ゆり(結婚して一色ゆり)と共に女子教育に心血を注いだ、その一代記です。

 

今までの柚木麻子の本にしては毛色がかわっているな~と思ったら、柚木氏は 恵泉女子中高の出身でした(大学は立教仏文科)。膨大な記録を読み、構想5年の末の大作・・・一言でいえば「力作」です。ですが、何というか厳しく言わせてもらうとなぜか「心に響いて」来ませんでした。たぶんそれはほぼドキュメンタリーに近いので、あまり史実と違うことも書けず、また敬虔なキリスト教の教えの母校の話なので、あまり羽目を外すこともできなかったのかな~と想像する私でした。作者自身によると「この物語は史実に基づくフィクションです。」との事ですが。

 

時代は江戸から明治へ。伊勢神宮の神官の娘として生まれたけれど、維新によって一家は露頭に迷い北海道へ渡るのです。そこで出会ったキリスト教の教え。題名の「らんたん」とは 日本のように提灯で自分の手元を照らすのではなく、ランタンのように回りを明るく照らすことを意味するのだそうです。

 

津田梅子や河井道、そして渡辺ゆりも留学したアメリカのプリンマー大学の卒業生による「ランタンナイト」という儀式から来ているとのこと。まるで看護学校のろうそくをともす「ナイチンゲール」の儀式のようですね。

 

私でも知ってるような教科書に出て来るような人物が次から次へと登場します。有島武郎に太宰治、広岡浅子に津田梅子、大山捨松、村岡花子に柳原白蓮、市川房江、山川菊栄、伊藤野枝などなど。

 

現代の私たちに耳慣れない「シスターフッド」という言葉は 本書でも重要な意味を持っていて、主人公の河井道と渡辺小百合、津田梅子と大山捨松、村岡花子と柳原白蓮のように、生涯の友としての契りを結んだ女友達をいうのです。

 

アメリカ留学で 日本の女子教育の遅れを取り戻すために、学校を作ろうと尽力する道を シスターフッドの渡辺ゆりは 夫となる一色乕児とは「河井道との3人の同居」を条件に結婚するのですから、本当にびっくりしました。そして乕児とゆりの間に生まれた一人娘の義子もまた、二人の関係を理解し「河井道と一色ゆりの物語」という本を書くのですから、二人の結びつきは娘から見ても、尊いものだったのでしょう。

 

津田塾の津田梅子の影に隠れて、今まで知らなかった恵泉女子学園の創設者河井道の人生と 当時まだまだ遅れていた女性の社会進出の状況などをよく知る事が出来ましたが、河井道の生涯を広く浅く知っただけ・・・という多少の不満も無きにしも非ず…と言うのが私の正直な感想でした。