あさつのあつこの時代小説「弥勒シリーズ」の5冊目「冬天の昴」を読みました。タイトルがいいですね。冬の朝の身も心もシャキッとするような空気感が伝わって来ます。前作「東雲の途」では 元侍の遠野屋の若主人清之介が、捨てたはずの故郷の藩へ命をかけて戻ったあれこれが描かれていますが、今回は もう清之介の隠密侍としての過去のドロドロは出て来ません。
今回は武士と女郎の無理心中から事件は始まります。信次郎の奉行所の新米同心赤田哉次郎が血まみれになって女郎と凄惨な死を遂げるのですが、真面目な赤田がそんな事をするわけもなく・・・。同心の不始末ともなれば、奉行所の一大事で、支配役与力の南雲新左衛門は切腹して責任を取らねばならず・・・。
裏に何かしら不穏なものを嗅ぎ取った信次郎、無理心中を装った殺人事件ではにらむのです。南雲新左衛門の切腹まで猶予は7日。ここから信次郎と岡っ引きの伊佐治、そして清之介を巻き込んでの謎解きが始まります。また同心信次郎のやさぐれ具合や清之介への意地の悪いちょっかいも相変わらずで、もう少し直になれないものかとため息がでます。
品川の旅籠の女将で信次郎と深い仲のお仙は元は武士の妻でしたが、10年前に やはり今回と同じように夫が 女郎と無理心中して、お家お取り潰しにあっていたのです。姑は自殺し、女郎屋からは莫大な保証金を要求され、その借金返済のために女郎に身を落とし、ようやく旅籠の女将になったお仙の10年前の事件と、瓜二つの今回の赤田の無理心中事件。やはり信次郎の推察通り、関係があったのです。
一方、遠野屋の顧客の材木商伊勢屋の奥方登勢の話も絡んで来て、清之介の出番となるわけですが、信次郎と違って、色恋沙汰にはとんと疎い清之介。故郷の嵯波藩で命を助け、今は遠野尾の奥で働いているおうのが、その力になります。
それにしても何の罪もない真面目な侍を無理心中に仕立て上げて、自分たちの富のために利用する血も涙もない闇の勢力の暗躍には腹が立ちますが、信次郎の同心としての読みと感が冴えわたり、真実が明らかになってホッとしました。さて第6巻では、信次郎の父の謎が明かされるようで、こちらも楽しみです。

