「シャンという鈴の音がした僕の白昼夢」 | 幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場

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「シャンという鈴の音がした僕の白昼夢」


ピエロは悩んでいた
毎日毎日観客に笑顔をあたえるのが僕の仕事で
毎日毎日幻想を魅せるのが僕の仕事で
毎日毎日毎日もういいかげんうんざりだった
何も変わらない日常
同じ笑顔
同じ拍手

観客は
人をこれほど喜ばせる事ができる
あなたのような素晴らしいピエロはなかなかいない。
さぞかし楽しい生き方なんだろう。
声をそろえてこういった

人間はあまりにもつまらない現実からたまに逃避してキラキラした幻想の世界に
身を投じないと生き続けれない。

ピエロだって衣装を脱げば恐らくは人間なのだから
同じことなのだ

幻想を作る者には逃げこめる幻想なんてないのだろうか

裸電球が水を被ると温度差で爆発して割れ
破片という違う形になるように
もうピエロも何か別の形になりたくて仕方なかった

もうこのピエロのままでいるには限界だった

さて、電球を割るには温度差のある水。
すなわち起爆剤が必要だ

ピエロは自分の起爆剤とやらを探すためにひっそりサーカス小屋をおさらばする
ことにした

なんせうまれてこのかたサーカステントの外はどうなってるのかすら噂しか知ら
ないから決死の覚悟だった

とりあえず
団長さん、その他の道化師達に最初で最後の手紙を書いた。

僕はもう疲れました。限界です
新しい僕を探すために僕はここから旅立ちます。

追伸。僕がマジックにつかうハトくんにエサをやり忘れないでくださいね。

ぐーすかイビキをかいて眠る団長のまくらもとにそっと手紙をおいた

そして新しい出発のために
いざ。
サーカス小屋の重くてどす黒い赤色のカーテンをドキドキしながらあけた
シャンと足元についている鈴の音がした
そこにはひんやりとして気持ちのよい闇。大きな金色の月がひろがっていた
これが聞いていた外の世界か
はじめての新鮮な世界に胸がおどった

美しく大きな満月に照らされ
シャンシャンと足元の鈴を鳴らしながら丘をかけあがりこれから起こる新しい出
来事にふふふと、胸をふくらませ楽しそうに踊る彼がいた。
地獄だと思っていたサーカス小屋も月明かりに照らされ鮮やかな色をしていた

彼はピエロ帽子を外し
足元のシャンシャンとした鈴をとり大きな月めがけてほおりなげた
シャンっと
大きな満月に鈴がのみこまれた
さようならサーカステントさようならピエロ
さようなら


そうして二度と振り返らずに歩きだそうとした時

視界が急に暗くなった

気づくと僕の前にはどす黒い赤いテントの天井。いつもと同じ笑顔と同じ拍手が
あった
あれはなんだったのか
ショータイム中にみた白昼夢

あのひんやりとした闇夜の月光浴をしながら
心も体も踊った新鮮で素敵な気分をふと
思い出しながら

ピエロはまた同じ笑顔と同じ拍手のために同じショータイムを続けた。

ただ足元のシャンとした音をだす鈴だけはなぜかなくなっていた


2011「Aliceの幻想劇場」