赤い糸 | 続・阿蘇の国のアリス
子供の頃の記憶は
昭和40年代から始まります。
その時、ぼくは小学生で、
母はスナックで
働いていました。
母の帰りはいつも深夜で
午後まで寝ていました。

ある時、
寝ている母の枕元に
婆ちゃんがやってきて、
子供にご飯をつくらんか、
と叱っていました。
ぼくがつくらんでいい、
というと、婆ちゃんは
恐ろしい顔つきで
ぼくをにらみつけました。
何年かして、
母は家を出ていきました。

急にさみしくなったぼくは
近所の犬小屋で犬を抱いて
寝泊りするようになりました。
それを見て父は
ムツゴロウになるぞ、
といいました。

(父とムツゴロウさんは
少年時代に
遊んでいたらしく、
ムツゴロウさんもよく
犬小屋から出てきて、
犬と一緒にご飯を
たべていたそうです)

犬はとても温かくて、
泣いているぼくの涙を
優しくなめてくれました。

40年後、
ぼくは初めての犬を
迎えていました。
名前をアリスと付けました。

生後10ヵ月の時、
避妊手術をしました。
アリスはよっぽど怖かったのか、
家に帰っても
身構えるようになりました。
ぼくはあやまり続けました。
3日目の朝、
アリスはようやく近づいてきて、
ぼくの頬をなめました。
ぼくはアリスを抱きしめ、
初めて大声で泣きました。

アリスが1歳になると、
友達が教育を始めました。
アリスはいくつかの
命令を口にすると
それに従いましたが、
ぼくはちっともおもしろく
ありませんでした。

「伏せ」といえば伏せる。
しかし、それが
何だというのでしょう。
ぼくとしては
何でも言うことをきく
奴隷がほしかったのでは
ありません。
一緒に遊ぶ仲間、
一緒に暮らす生き物が
欲しかったのです。

一日中
ぼくの顔色をうかがって
すべてに服従する犬よりは、
勝手にとび回って
自分の判断で動き、
自己主張する犬の方が
好ましいのです。

いけないことをやった時、
ぼくが舌打ちをして
不快感を表せば
アリスは止めました。

それで充分ではないでしょうか。

赤い糸で結ばれた鵜匠とウ