ノラクロと過ごす冬至 | 続・阿蘇の国のアリス
今日は冬至。

気持ちの分岐点。

「ゴールデンコテージ?」


阿蘇のきびしい冬は
これから始まるのですが、
太陽の描く弧は
少しずつ広がっていきます。

「ここが、
ぼくを見つけてくれた
アリスちゃんのおうちなんだね」


「アリスちゃん...」


「どこ?」


「どこにいるの?」


「ぼくは幸せに暮らしている...。
お礼をいいたいんだ」


「ノラクロの匂い?」


「ノラクロ...!?
会いに来てくれたの?」


「トクナガパパが、
年末恒例の
アリス家のお風呂掃除の
バイトにいくというから、
いっしょについてきたんだよ」

「そうだったの」


「パパ、降ろして」

「だいじょうぶ?アリス」


「ノラクロ、ついておいで。
アリスのドッグランまで案内してあげる」


「いいの?」

「いいよ。あなたには
幸せになる権利があるんだもの」


「好きに遊んでいいよ」


ノラクロは今年の5月、
私たちが小国町を旅した時に
山中で出会った奇形の野良犬。

人に慣れていたから、
誰かが捨てた犬...。

翌日には阿蘇保健所に入れられていました。

奇形だから、
誰ももらってはくれず、
死を待つだけの犬でした。

それを、
トクナガくんがもらったのです。

トクナガくんの凄いところは、
たとえ奇形でも
なんの偏見も持っていないところ。


ノラクロが曲がらない後ろ足を蹴って、
トクナガくんの後ろに回った。


座るノラクロをトクナガパパが抱き締める。


ノラクロはトクナガパパの胸に頭を埋めた。


「...パパ」


ノラクロはすべて委ねられる大人に
生まれて初めて出会っていました。


いつまでも元気で、長生きして欲しい。

私はもう...


ノラクロは私から目を離しませんでした。


私も目を逸らしませんでした。


自分と同じ幸せの匂いを放つ相手に
引きつけられたのです。


「よかったね、ノラクロ...」


「...グスン」


今日は冬至。

人々は心のどこかで、
春のありかをしっかりとらえている。