たとえ暗闇でも | 続・阿蘇の国のアリス
7回痙攣したあの日から、
私はベッドから起きあがれなく
なっていました。

動くのは首からうえだけです。

言葉は切り詰められ、
たまに発するのは
「ワン!」という単語だけに
なってしまいました。

なにかしてほしいとき、
私は視線とまぶたでこたえます。

パパとママと交代で
介護されながら、
私は私でなくなる時間を
待っていました。

そのとき私は
いったいなにをするのだろう。

トイレは寝たままで、
ペットシーツのうえにする。

それが習慣になっていました。

その日のトイレは、
パパがおなかをさすったり、
手をにぎったりしてくれていました。

私の左目から
ひと粒の涙がこぼれ落ちました。

なぜ自分が泣いてしまったのか、
私にはわかりませんでした。

必死になって
歩いてトイレをしていたことが、
そんな意味があったのだと
初めて知りました。

私は今まで、
これほど苦しんでいたんだ。

もう苦しまなくてもいいんだ。

理由のわからない涙が、
心の深いどこかからあふれてきました。

(ねえパパ、私、バカみたいに
映ってないかな)

「もし、今のアリスをバカらしい
という人がいるなら、
ぼくがなぐり倒してやる」

泣かせる台詞でした。

私は泣き笑いの顔でいいました。

(もう一度、歩いてトイレがしたい)

私は暗がりに足を踏み入れました。