勇気のある犬 | 続・阿蘇の国のアリス
きみは深呼吸した。

ぼくも深呼吸した。

ぼくたちは恐ろしい真実を少しでも、
先に延ばしたかったんだ。

そのあと、
ぼくは生まれてから
一番勇気のある犬を見た。

きみは意思の力でしっかりと歩き、
そして、オシッコをしたんだ。

けれど、
その前にぼくが示した勇気も
きみに負けなかったと思う。

真夜中の森のなか、
1時間近くきみを支えていたのだから。

ぼくは涙をぬぐい、きみの頭をなでた。

愛らしい頭のなかの脳腫瘍を
きれいに消してしまうように、
ていねいに。

きみはありがとうといって泣いた。

ぼくもありがとうといって泣いた。

ぼくはくたくただった。

身体はひどく疲れているのに、
心は異常なほどの熱をもっていた。

きみはもういつもの
アリスにもどっていた。

ついさっきまで、
ぼくの胸をびしょびしょに
濡らすほど泣いていたのに、
平気な顔でいう。


「ねえ、パパ。
つぎは、高い馬刺したべたいな」

高いのところだけ強調して、
きみは笑った。