ビールのようなオシッコをしたら...
旅の始まりです。
「アリスママ~♪」
「ホーちゃん、ジュジュく~ん♪」
「ホーちゃん、眠れた?」
「うん♪」
「きょうは、あの山にのぼるよ」
その日私たちは、
月廻り温泉に集合しました。
今日みんながのぼる、
清栄山(1006メートル)は
東外輪山で一番高い山です。
すぐ近くの山なので、
私が元気な頃は毎日のぼっていました。
「ジュジュかあさん、私待ってるから」
あの日、
パパの仕事が終わった深夜。
いつものように、
高森殿の杉から
登山道を走っていた時だった。
ふっと背後に
何かの気配を感じたの。
振り返って見ると、
それは一頭の若いオスのキツネだった。
やがてキツネは、
生まれたばかりの野ウサギの子を
次から次へと殺しながら走ったわ。
獲物を食べるのではなく、
生命を奪うためだけのハンティング。
きっと、
死はキツネにとっての芸術だったのね。
それは人間のもつ狭い
善悪の世界の問題ではなく...
そのことで、
少しもキツネの存在を
低くするものでもなく...
それがキツネなんだ。
「アリスママ、がんばって~!」
「30分で山頂に到着~♪」
「やったぞーー!!」
「アリスーー!!」
「とうさん、やったね」
みんなはまるで
初めて阿蘇を訪れたかのように
はしゃいでいました。
「シカが鳴いてる...」
この山の素晴らしさは、
外輪山の下に広がる裾野の
美しさにあるでしょう。
この裾野に帰って来ると、
私はいつもホッとしました。
「いつか、シカを追いかけてみたい。
どこまでも」
「寝坊した...」
「アリス、ただいま」