おやすみ、ノラクロ | 続・阿蘇の国のアリス
「おはようアリス」

「ノラクロに会いに行くんだね...」


「小国町の山中で出会ったとき、
そのノライヌは
後ろ足を引きづっていたから
とても心配していたの...
生きていけるかなって。
結局、保健所に保護されたんだね」

「間に合ってよかったよ。
ケガをしていても、
僕の決心は変わらないよ」


「私の首輪もリードも、
犬小屋もケージも、
みんなノラクロにあげる。
わたしはもう、使わないから」




ノラクロが保護されている
「阿蘇保健所」までは、
峠を越えて行きました。




「最初に犬に会わせてもらえますか?」




「君は誰だい。僕を殺す気かい?」


「ちがう、迎えに来たんだよ」


「怖がらなくていいよ」


「おいで、ノラクロ」


ノラクロと対面したトクナガくんは、
次に誓約書を書きました。




にせモンも心配して駆けつけてきました。


面接と誓約書を書き終えると、
ノラクロは晴れて
トクナガくんと家族になりました。

みんなの声がそろってはじけました。
「ありがとうございました」

「いいえ。お礼をいうのは
こちらのほうです。
ああした場合、
もらってくれる人はいません。
この子はいい子です。
この子に生きるチャンスを
与えてくださってありがとう。
幸せになるんだぞ!」


生きるチャンスを
与えてくださって
という言葉だけで、
パパは涙があふれて
とまりませんでした。


その夜、
ノラクロは見慣れぬ建物に
驚いたようでしたが、
最初のご飯と最初のトイレを
すませると、それぞれの部屋の
探検にでかけたそうです。


小さな尻尾をまっすぐに伸ばし、
頭を高く上げて
周囲に注意を払いながら、
ゆっくりとリビングを歩いていく...


それはきっと、
私が初めてママとパパの
子供になった日の、夜のように...。


「おやすみ、ノラクロ」