「クッ、クッ。
アリスちゃん、だいじょうぶかな」
それでも、パパとママは
弱り切った私を連れて旅に出ました。
最後の時まで、
私を私らしく生かせようと
しているのです。
今日は川に行くのだそうです。
「ほらアリス、着いたよ♪」
「どこだかわかるかい」
「大野川...」
「正解!あなたが
ヤマメを追いかけた、
大好きな大野川源流よ」
「私、まだ生きてるの?」
「生きてるよ、ちゃんと...」
「アリスちゃん、よく来たね。
電話しようかと思ってたのよ。
今日は、広島のジュジュくんは?」
「アリス、おなかすいたでしょう。
食べてくれたらうれしいな」
「名水茶屋さんが、
アリスちゃんにって...
豊後牛多めにくれたのよ」
「はい、どうぞ」
「ん?豊後牛」
「パクッ、パクッ、パクッ♪」
「アリスはほんとうに、
おりこうさん...グスン」
「私、なんだかまだ生きていけそう」
「ここにも、エリゲロン...」
「ツツジ」
私が花を眺めていると、
パパがツツジの花を摘んで
私とママの頭の上にのせました。
と、次の瞬間...
川風が吹いて、
ツツジは飛ばされてしまいました。
ツツジはゆっくりと、
川下へと流れてゆきました。
きっとあの二つのツツジは、
海までずっといっしょに
旅をするのだと思いました。