夢の中で足音が聞こえました。
板張りの床がきしむ音です。
誰が近づいてくるのかわかっています。
私は病気だから悲しみに打たれ、
動けずにいます。
最初に見えるのは女性の手。
ななめうえからおりてきた手が、
私の頬をささえます。
指先の冷たさが微熱をもった頬に心地いい。
ママの声が聞こえました。
「アリスちゃんおはよう。
さぁ、お水を飲んでご飯にしましょう」
ママはしゃがみこんで
私の顔を覗きこんでいます。
優しげで心から笑っています。
私の大好きな顔です。
次に見えるのは男性の手。
おなかにあてられた手が
私の身体を持ち上げます。
笑いながらひたいをあわせ熱を確かめます。
パパの声が聞こえました。
「さぁアリス、がんばってトイレしょうね」
迷惑をかけていることに
胸が苦しくなります。
やっとのことでトイレをすませると、
パパは涙を落していました。
「よくがんばったね、今日も生きようね」
パパの体はとても温かでした。
その温かさに抑えていた感情がせきを切り
あふれだしてしまいます。
もう涙に抵抗することはできませんでした。
「パパ、肩をかして」
私はパパの肩に頬をのせて、
それから十分間泣きました。