久木野庵 | 続・阿蘇の国のアリス
「パパ、これ、なあに?」

「玉川の鉱石。匂うと頭にもいいよ」


「ほんと。クンクン」


私がお留守番をしている間に
パパとママは「久木野庵」さんにいきました。


「久木野庵」さんは
大晦日のNHKニュースで、
再開年越しそばとして放送されていました。


「アリスパパ、ママ。いらっしゃいワン」

「シロちゃん、こんにちは」








阿蘇のそば屋さんの中で、
ママはここが一番大好きです。




午後はゆっくりとすぎていきました。


私はデッキに寝かされ、
ママはその横で靴を洗いました。


「やぁ、ヤキトリにミズタキ」


「コッ、コッ。
アリスちゃんもうすぐ誕生日だね」


「クッ、クッ。
ここまでよくがんばったね」


「ねぇママ...。
誕生日がすんだら、
私は死んじゃうのかな。
死んだら、どうなるのかな。
やっぱり死ぬときは苦しいのかな。
ママ、なんだか怖くてたまらないよ」


「怖いね。ママも怖いよ。
あなたになにもしてやれなくて、
ほんとにくやしい...」


私を思いやる言葉は、
最後にはとてもシンプルなものでした。

怖いといえば怖いといい、
私の代わりに自分が死にたいという。


私は声を漏らすこともできずに、
いくつか涙を落としました。


「ありがとう、ママ」

2016年高森峠の千本桜