2017年外来その2 | 続・阿蘇の国のアリス
「不思議ね。わたしたちは
高校時代の同級生で
34年もつきあっていたのに、
実際に一番しあわせだったのは、
肺がんのあとの二年間だなんて...。

病気のせいが
大きいのかもしれないけれど、
私たちの心が
ぴたりとフィットしたみたい。

自分と他人の区別はなくなって、
男と女の違いもなくなったみたい」

「チュルル、チュルル」


病院に着くまでの時間に、
彼女はそこまで話すと、
浅い眠りにつきました。

僕はできるかぎり
彼女の乾いた手をにぎっていました。


病院に着いてからは、
時間はじりじりと流れていきました。

血液検査と、
八カ月ぶりのCT検査の結果がでる
午後一時までの二時間が
一日のように長く感じました。


どれほどあせっても、
彼女にしてあげられることは、
なにもないのです。

「アリスママどうぞ」

彼女は顔をあげて診察室に入りました。

ひとりで生まれ、
ひとりで育ち、
いつか想像もできない場所と時間に
ひとりで死んでいくのが、人間なんだ...

彼女はそう心に刻み込んでいるのです。


「CT検査も順調です。本当にいい薬ですね」

主治医はさらりと言い放ちました。


帰りの車で、
僕が彼女の手をにぎろうとしたとき、
てのひらにあたたかなものが
落ちてきました。


「僕には見えるよ。
今の薬は長く効く。そのあとの薬も長く効く。
別に予言とか、夢とかじゃなく、
実際にそうなるんだ」

僕がいうと、
彼女の涙はとまらなくなりました。


「アリスもきっと、そうなるわ...」


彼女の涙がとまらなくなったのは、
アリスのことを思って泣いていたんだ...

僕はその言葉で
ようやく気がつきました。

「ただいまアリス。あなたを愛してる」