「これがシカで...」
「これはイノシシでしょう」
「ウサギに...」
「...キツネ!...レッドの足跡だ」
「これがタヌキか...イエヤスの足跡だな」
「アリス。ちゃんと覚えた?
今度の試験に出るわよ」
「うん、覚えた」
「それよりアリス...。
みんなにお礼を言いなさい」
「うん。
みんなありがとう!
また、助けてもらって...。
次もよろしくね」
「今日は落ち葉拾いをしましょう」
「また来たの?」
「今月あと千円しかないんだ」
「コッコッ。アリスちゃん
危なかったんだって?」
「うん。でもね...
お友だちが助けてくれたの。
おかげで、ママも守れたんだ」
時々風が森の中を吹き抜け、
木々がざわざわと揺らめいています。
「風さん...何か起ころうとしているの?」
夜のとばりがおりてくると、
晩秋の大気は冷え込んできました。
「アリス...
落ち着いて聞くんだよ。
熊本の友だちのなっつんさんちの
キャンディちゃんが、
今夜、亡くなったんだって...」
私はパパにむかって吠えました。
「もう無理だよ!
私はこれ以上もたない」
パパは私を抱きしめながら言いました。
「何がもたないの?
アリスはまだ歩けるし、
トイレだって自分でできる。
食欲もあるし、尻尾も振れる。
おまえはまだ、生きられるんだ」
やがて話も途絶え、
沈黙が続くと、
私はいつしか眠りについていました。
「さよなら、キャンディちゃん...
スーー、スーー」