わたしの桃源郷3 | 続・阿蘇の国のアリス
これはまだ、
地震が起こる前のお話です。


一月、二月は遠く去り、
四月の声を聞き始めると、
わたしたちは焦りだしていました。


というのも、
三月の渓流解禁以来、
まだ大きなヤマメを釣ることが
できないでいたからです。


その日も、
早く釣りをすればいいものを、
椎葉村の「鶴富屋敷」に、
どっぷりと浸かってしまいました。


ときは、一一八五年三月。
壇ノ浦の合戦に敗れた平家は、
安住の地を求めて、
椎葉村へ逃れてきました。


そこへ、
扇の的で名高い、
那須与一の弟・大八郎が
平家追討のためにやってきます。

しかし、
そこにはかつての栄華もなく、
山間の地で畑を耕し、
ひっそりと暮らす
残党たちの生活がありました。


大八郎は討伐を諦め、
幕府に命を果たしたと
嘘の報告をするのでした。


やがて大八郎は、
平清盛の血縁、鶴富姫と
恋仲になるのですが、
同じ頃、帰還の命を受け、
京へと戻っていきました。


その大八郎と鶴富姫が
住んでいたといわれるのが
この「鶴富屋敷」なのです。


わたしが1歳の頃、
初めて来た時のことを
皆は、覚えてくれていて
すぐにうちとけることができました。


川に入ったのは
それからでしたので...


その日もやっぱり...


釣れませんでした...。


震度7を観測した熊本地震の時、
椎葉村では震度5弱を観測。
伝統的建造物にも
被害があったそうです。


そして今日、
釣り名人ワタナベからの誘惑です。


「椎葉で源流ヤマメを。
五ヶ瀬で大イワナを釣りました。
ところであなたたちは、
いったいどこで
何をしているんですか?」


やっぱり釣れない。
まだまだ釣れない...。