渓流釣り解禁が近づくと、
川に逝った友人のことを
思い出します。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/3f/60/j/t02200165_0800060013564653384.jpg?caw=800)
僕がまだ二十代の頃、
19歳の彼とは毎週のように、
釣りに出かけていました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/48/87/j/t02200165_0800060013564653033.jpg?caw=800)
彼に渓流釣りを
教えたのも僕で、
彼は僕のことを、
師匠と呼んでいました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/f6/9a/j/t02200165_0800060013564653034.jpg?caw=800)
そんな
たったひとりの弟子は、
何度一緒に釣りに行っても、
魚の数も、大きさも、
一度も僕には勝つことが
できませんでした。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/e4/52/j/t02200165_0800060013564653032.jpg?caw=800)
しかし、
最後の釣行はちがいました。
激しい大粒の雨が
川面に降り注いだ後、
チョコレート色の濁流を
泳いで渡り、大渕から、
見事な大ものを
釣り上げたのです。
「やったあ!
師匠に勝った。
もう悔いはない」
彼はそう言って、
遠くの大学へと
入学してゆきました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/eb/a4/j/t02200165_0800060013564653031.jpg?caw=800)
それから
半年ほど経ったある日、
彼の母親から、
電話がありました。
「息子が亡くなりました…」
彼は溺れている女性を助けた後、
力尽きて、滝つぼへと
沈んでいったのです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/7d/56/j/t02200165_0800060013564653730.jpg?caw=800)
二十代のはじめ、
友人の死を通して、
人間の一生が
いかに短いものなのか、
そしてある日突然
断ち切られるものなのかを
僕は感じとったのです。
私たちは
カレンダーや
時計の針で刻まれた
時間に生きているのではなく、
もっと漠然として、
あやうい、
それぞれの生命の時間を
生きていることを
教えてくれたのです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160211/23/alice-in-aso/83/85/j/t02200165_0800060013564653728.jpg?caw=800)
たったひとりの
子供を亡くした両親が、
あれからどう過ごしたのか、
僕は知りません。
ただ、あの日、
大ものを手にした彼の写真は、
遺影写真となり、
今も僕の傍で
微笑んでいます。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160209/23/alice-in-aso/d6/83/j/t02200165_0794059613562979583.jpg?caw=800)