あるアリの物語。第十四回 | アリを主人公にした物語を創るブログ

あるアリの物語。第十四回

「マイケルさん、はじめまして。私の名前は、ジャックです。」

二人はぎごちなく、握手を交わしました。

「ジャックさん、あなたはギターを弾いたことはありますか?」

手を握ったままの姿勢で、いきなり質問されたジャックは、

マイケルの大きな瞳に吸い込まれそうになるのを感じながら、

正直に答えることにしました。

「いえ、ありません・・・・・。あの、やはり私には無理なんじゃないですか?

そうなら、はっきりそうだと言ってもらえたほうが助かりますから」

不安そうに応えたジャックの緊張をほどくかのように、

マイケルは柔らかい笑みをたたえました。

「いやいや、かえって、へんなクセがついていないほうが、

上達が早いかもしれません。

まぁ、すべてはジャックさん、あなた次第ですがね」

恐れていた内容とは異なるマイケルの返答に大いに勇気づけられたジャックは、

いったんほどきかけたマイケルの手を再び強く握りなおしていました。

「マイケルさん、私は手先の器用さと、コツコツ努力することだけは

誰にも負けません!ひとつ、よろしくお願いします」

力強く振られる自分の手を眺めながら、マイケルは苦笑するしかありません。

「フォッフォッフォッ、まぁ、わかりました。とにかく楽しくやりましょう。」

「で、何から始めればいいのでしょうか?」

すっかり勢いづいたジャックの質問にはすぐに答えず、マイケルは壁のほうへと進み、

立てかけられたギターの何本かの弦の具合などを確かめて、

やがて1本を手にして戻ってきます。

途中で、テーブルの上にあった本に手をのばして持ち上げると、

フッと息を吹きかけてホコリをはらいました。

「そうですね、まぁ、まずは、このギターをお貸ししましょう。

毎日、このギターにさわることです。

それと、基本のコードや弾き方は、この本に書いてありますから。

これを読んで、毎日、ギターにさわる。それだけです。

毎日、ここへ来て弾くといいでしょう。」

差し出されたギターと本を、ぎごちなく受け取りながら、

疑い深い表情になりかけたジャックがたずねます。

「この本と、このギターですか?で、マイケル先生は、何を教えてくれるんですか?」

マイケルは面倒くさそうにソファに身を沈めると、

ジャックの目ではなく天井を見上げながらつぶやくように言いました。

「私は、このソファにすわって、ジャックさんの弾く音を聞いてます。

間違った方向に進みそうになれば、引き戻しますから、大丈夫です。

まぁ、海で泳ぎを覚えるようなもんです」

「はぁ・・・・」

もっと手取り足取りの指導を期待していたジャックでしたが、

マイケルに反論するだけの知識もなく、

差し出されたギターと本をだまって受け取るのでした。