男女の出会いは星の数というけれど、本当にそうだろうか。

そりゃ、コンビニにも弁当屋にも人はいるけど。

誰でもいいってわけじゃない。

俺にだって選ぶ権利はあるばずだ!

そう思う毎日が過ぎ、気が付いたら25歳、彼女ナシ。



若い頃は(いや、まだまだ俺は若いんだった)、友達に誘われ合コンにもしょっちゅう行っていた。

でも、盛り上がるのはその場だけで、特に気に入った女の子もいなかった。

仕事をしてからは毎日が忙しく、キャンセルばかりしていたら、そのうち誘われなくなった。


友達ってなんなんだろ。あー、明日も仕事か。うぜえ。

でも、今の俺から仕事を取ったら何になるんだ?



俺は宅配便の仕事をしている。体が資本の厳しい世界だ。

重い荷物を持ちすぎて、腰を痛め、ヘルニアになる同僚がわんさかいる。

給料はそこそこいいから、若いうちにさっさと稼いで金貯めて、家建てて、あとはのらりくらりと暮らしたい。

理想っちゃ理想だけど、体壊してまではやりたくねえし。将来見えねえのが現実だ。


ただ、ここ1年位でメール便の仕事が山のように増えた。

メール便て何かって?

ほら、よく君んちにも来るでしょ、ダイレクトメールなんかが。あれで「郵便物ではありません」てシールが

貼ってある、あれですよ、あれ。

郵便物と違って、A4サイズなら重さに関係なく、厚さ1センチまでは日本全国80円で送れる。

郵送コストを下げたい企業が食い付いたのは言うまでもない。

あ、これは広告じゃないぜ。別にメール便が増えたからって俺の給料は上がるわけでもなく、忙しくなるだけなんだから。


最近はこのメール便の配送のために、同じエリアをグルグル、郵便局員並みに配達してるってわけ。

運ぶものは軽いから楽だけど、とにかく数が多い。

あと、まあエリアの問題だけど、俺の担当地域は名の知れた会社が多いからか、偉そうな客がたくさんいる。

何様だ~~!!!と思いつつ、笑顔で「毎度ありがとうございますっ」

俺も大人になったもんだ。



で、いつものように配達してたら、おっさんが話しかけてきた。


「メール便を始めたいんだけど。」

「はい、ありがとうございます。」


おっと、ご新規さん、いらっしゃーい。


「なんか、手続きする書類はあるのかな。」

「はい。えっと、こちらのビルですか?」

「うん。5階なんだが。」

「では、後ほど書類をお持ちします。」

「ああ、頼むよ。」


こんなやりとりはそう珍しくない。戻ってから必要な書類を持って再びビルに向かう。


あー、なんだよ、5階なのにエレベーターなしか。ちっ。


でも、舌打ちなんかする必要なかったんだ。

男女の出会いとはこうゆうことだって、ようやくわかったんだから。








タキシードを着た彼は、さらに痩せて小さく見えた。



葉書の「結婚します」の文字を見たとき、体の内側が、何かにきゅっと摑まれたような気分になった。

そうか、幸せになるんだね。良かったね。

私じゃない人と。

彼が、選んだ人と。



当日はかなりの意気込みでお化粧をし、友人と待ち合わせをして式場に向かう。


「まさか、結婚するとはね~。私会うの久しぶりだよ。どんなかなー。相手の人、知ってる?」

「私も相手は知らないけど。楽しみだね。」

「大学の時、付き合ってた綺麗な人と結婚するんだと思ってた。そう思ってなかった?」

「うん、思ってたかも。」


そう、彼にはいつも隣に綺麗な人がいた。私と会う前から、ずっと。

容姿に自信のない私は、もしかしたらその隣にいたかもしれない、なんてことは

絶対に言えないのだけれど。


彼の相手は、やはり綺麗な人だった。

色白で細く、艶やかな女性。

彼の好みに合うんだろうな。


「せんぱーい、おめでとうございます!写真撮りましょ~!」

「おお、久しぶりだな。ちょっと太ったか?」

「ひどーい、そんなことないですよっ。きゃー、奥様キレイ!!」

友人ははしゃいで写真を何枚か撮った。

花嫁の隣では写りたくなかったけど、私も何枚かその写真に納まった。


- おめでとうございます。

- おお、ありがとね。

- なんだか顔色がすぐれないですけど?

- 実は風邪でさ。熱が40度近くあるんだよ。死にそー。

- え?!

- 朝、病院で点滴と注射してもらってなんとか立ってるけどな。

- さすが。でも終わったらゆっくり休んでくださいね。こじれないといいですね。

- うん。・・・お前、なんか雰囲気が変わったなあ。

- そうですか?自分じゃわからないですよ。

- ・・・・・・。いい女になったんじゃねえ?

- ぶっ。何を言うかと思ったら。それはないです。

- そうか?ん、まあ、幸せになれよ。

- はい、もちろんです。

- あ、なんかあっちで呼ばれてるみたいだから、またな。

- はい。のちほど。


これが、彼と交わした言葉の全て。

言わなくても、言われなくてもわかったような気分になったのは、私だけだったのかな。

今となってはそれを確かめる術もないし、確かめようとは思わないけどね。

その後の出来事はあまりよく覚えてない。だけど、幸せそうな二人とその友人達に囲まれて

私も幸せな気分になった。


きっと、これでよかったんだと思う。


強がりでなく、私の人生の1ページの、いい思い出。


とはいえ、これはフィクションです。




明け方、寝息をたてる彼を起こさないように、そっとベッドを出る。


「お話、楽しかったです。体に気をつけてくださいね。先に帰ります。またお会いしましょう。」

薄暗い照明を頼りに、そんなメッセージを書いた。そして、それを彼のジャケットの内ポケットに入れた。


外はまだ暗く、街はひんやりと、そしてしんとしている。

今度はいつ会えるのだろう。

もう会うことはないのだろうか。


それから1年後、自宅のパソコンに彼からメールが届いた。


複数の相手に対して送っているためか、いつもの彼とは違う文体だった。

メールの内容は言えないが、重大なことを私に知らせていた。

今、日本にいるという。

とにかく話をしなくては。すぐに、電話をかけたが、私が知る彼の携帯番号は既に解約されていた。


「電話番号がわかりません。私の番号は×××・・・・です。お時間があれば電話下さい。」

メールを送って、携帯からの着信を待った。返事はなかった。携帯を持ったまま寝てしまい、

朝着信を確認したが、何もなかった。


忙しいのかな・・・私が何かできるわけないけど、心配だよ。


それから3日後の深夜、彼から電話がきた。


- よう。久しぶりだな。

- 大丈夫ですか?

- 大丈夫じゃねえよ。もうクッタクタだよ。


声は本当にくたびれていた。いつもなら多少の事では動じない彼が、弱弱しい声を出している。

相当ダメージが大きいのだろう。


- らしくないですね。

- そうか。こんなもんだぞ、俺は。

- そうですかー?


わざと、とぼけた声を出して、誤魔化す。

違うよ、あなたはそうじゃないよ。そんな弱気なあなたは知らないよ。


- 誰かから連絡ありました?

- まあ、いろいろとな。でも家族・会社以外ではお前くらいしか連絡してないからなあ。

- ・・・そうなんですか?

- 深い意味はねえよ。


本当に?


- で、最近どうよ?

- 別にどうってことないですよ。元気に生きてます。

- そりゃ、いいなあ。羨ましいぜ。

- そうですか?

- もう逃げ出したくなるよ、いろんな事からさ。

- 逃げてどうするんですか。

- だよなあ。ところでお前、結婚しないの?

- は?なんですか唐突に。 


あなたの今の気持ちは、私への本当の気持ちではなく、環境が生み出した一時的なもの。

私が優しく彼に手を差し伸べれば、簡単に未来の扉が開かれる予感がした。

そんな気の迷い(?)で人生の階段、上っていいの?

いいわけないでしょ。私は彼にそんな男であってほしくはなかった。


- お前さ・・・

- あ、あの、私彼が出来たんですよ。今度紹介しますね。

- ・・・は?

- なーんて、お父さんでもないのに紹介したら変でしたね。

- なんだ、幸せなんじゃん、お前。

- そうですよー。幸せ光線をこの電話でわけてあげます。

- なんだそりゃ。


プロポーズされるかも、と思ったのは私の考えすぎかもしれない。

彼にはそんな気持ちなど、全くなかったのかもしれない。

単なる後輩に、愚痴っていただけ。

きっとそうに違いない。


- 今度帰ったら、当分帰国できねえよ。

- そうですか。しばらく会えませんね。

- 忙しいのか?

- そうですね、ちょっとここ数日は。


スケジュールなんて、どこ見ても真っ白だったけど。なんとなくとっさについた軽い嘘。


- まあ、元気でやれよ、カレシによろしくな。

- はい、ありがとうございます。


時間にして5分足らずの電話だったけど、耳が熱くなって、体がジンジンしていた。

夜はよく眠れなかった。


もう彼と二人きりで会うことはないだろう。


その確信は数年後的中し、彼からの結婚式の案内葉書で確実なものとなった。