御嶽スカイラインの最終地点へ辿り着くと、そこには7月1日にオープンしたばかりのカフェ「田の原Base」が静かに営業を始めていた。
店内はもちろん、屋外にもテーブル席が設けられ、テラスに腰掛ければ雄大な御嶽山を眺めながら、ゆっくりとコーヒーを楽しむことができる。
私はアイスコーヒーと胡麻サブレを注文した。
メニューには紅茶をはじめ、各種ドリンクやスイーツ、軽食も揃っており、ツーリングで疲れた身体を休めるには実にありがたい場所である。
応対してくださった女性店員の方は、とても穏やかで親切だった。御嶽山噴火当時のこと、そして震災による山崩れについて丁寧に教えてくださる。
「正面を見て右側の少し盛り上がった場所が噴火の跡です。そして左側の大きく削れた部分が、山崩れで被害が出た場所なんですよ。」
何気ない景色だと思って見ていた山肌が、その一言でまったく違う表情を見せ始めた。
約一時間ほど休憩し、9時30分に田の原Baseを後にする。
次なる目的地は飛騨高山。距離は約94km、所要時間はおよそ2時間。途中で何度か休憩を挟み、実際には2時間半ほど掛けて到着した。
目指した店は飛騨牛の名店「味の与平」。
朝の御嶽では肌寒さを感じ、ウインドブレーカーを羽織っていた。しかし、高山へ到着すると気温は35度。湿度も高く、じっとしていても汗が噴き出す。
暑さを見越して、夏用のメッシュのライダーズジャケットの下には速乾・冷感・抗菌機能を備えたインナーに着替えていたものの、この日の猛暑は想像を超えていた。それでも、そのインナーは汗を素早く吸収・拡散し、落ち着く頃には衣服の中は驚くほど快適さを取り戻していた。
朝は震え、昼は汗だく。一日のうちに18度から35度までを体感するとは、出発した時には想像もしていなかった。
そんな中で改めて感じたのが、BMW R1300RSの排熱性能だった。
これまで私が経験した中で最も排熱が厳しかったのは、第一位がドゥカティ、第二位がハーレー、第三位が2023年型BMW S1000RR。
それと比べるとR1300RSの排熱は、単気筒のSVARTPILEN401より少し高い程度。真夏でも不快になるほどではなく、実用性は十分に高いと感じた。
今回のツーリングでは、思いがけない幸運もあった。
本来なら水曜日到着予定だったネッククーラーが月曜日に届き、この旅に間に合ったのである。
結果から言えば、これがなければ御嶽スカイラインを走った時点で帰路についていたかもしれない。
さらに絶大な効果を発揮したのが冷却スプレーだった。
ネッククーラーは首の左右と後方、三か所のペルチェ素子で動脈と静脈を冷却する。
その上でヘルメット用バンダナを巻き、十分な量の冷却スプレーを吹き付けてからヘルメットを装着。さらにジャケットの内側にもスプレーを噴霧し、上半身全体を冷やす。
そして意識的に多めの水分補給を続けながら走る。
これらを組み合わせることで頭は驚くほど冴え、疲労感も大きく軽減された。
ネッククーラー用には予備バッテリーも一つ用意していた。
結果として一つでは足りず途中で交換することになったが、この準備は間違いなく正解だった。
そして、このネッククーラーはこの後、さらに意外な場面で私を助けることになる。
飛騨牛を食べ終えたものの、私には少し量が足りなかった。
ガソリンを給油しながら次の目的地へ向かう途中、何か食べられる店を探していると、一軒の喫茶店が目に留まった。
時刻は13時。
老夫婦が接客をされ、厨房では息子さんと思われる男性が料理を担当しているようだった。
ところが営業は13時30分までとのこと。
「もう終わりですよね。本当は一時間くらいゆっくりしたかったので、また改めます。」
そう言って帰ろうとすると、「大丈夫ですよ。」と奥様が笑顔で声を掛けてくださった。
その一言が嬉しく、アイスコーヒーに加えてカレーライスも注文する。
運ばれてきたカレーを一口食べる。
……美味い。
派手さはない。しかし、またこの辺へ来たら立ち寄りたいと思わせる味だった。
しかも値段は600円。このご時世では驚くほど良心的である。
冷房の効いた店内で身体も落ち着き、ようやく汗も引いた。
十分に英気を養った私は、次なる目的地へ向けて再びエンジンを始動させる。
向かう先は諏訪。
ロングツーリングで蓄積した疲れを洗い流すため、公営の日帰り温泉が私を待っていた。
第3話に続く...














