宿に戻ったのは15時30分。まだ夕食には少し早い時間だったが、今日一日の疲れを癒すには、これ以上ないタイミングだった。誰もいない閑散とした温泉に身を沈めると、湯の熱がゆっくりと身体の奥へ染み込んでくる。旅先で入る温泉には、自宅の風呂とは違う何かがある。「今日もよく走ったな」そんなことを考えながら、しばし何もせず湯に浸かった。
今日走ってきたのは、ライダーなら一度は走ってみたいと思う道のひとつ、「北太平洋シーサイドライン」。信号はほとんどなく、白樺の木々が北海道らしい景色を作り、その間を縫うように道路が伸びている。緩やかなワインディングは海岸線をなぞるように続き、場所によっては突然、目の前に雄大な海が現れる。走っているだけで気持ちがいい。しかも要所要所で「ここで写真を撮りたい」と思わせる景色が現れ、少し走っては停まり、また走っては別の景色に惹かれて停まる。そうなると予定通りに進むことなど最初から無理なのである。
※地図並びに写真はネットからの引用です。
この道を走るなら、スタート時点の予定に最低でも一時間程度は余裕を見ておいたほうがいい。急いで走り抜けるより、気になった場所で立ち止まり、海を眺め、写真を撮る。そのほうが、この道を走る意味がある。そして海沿いを走る楽しみは景色だけではない。海の幸もまたこのルートの魅力で、新鮮な海鮮を食べさせてくれる店も多く、目で景色を楽しみ、バイクで道を楽しみ、最後は舌でも北海道を楽しめる、なかなか贅沢な道である。
温泉から上がると身体には適度な疲労感が残っていた。さて今夜は何を食べようかと考えた末、頭に浮かんだのはやはりあの店、「釧路夕日酒場」だった。ここはなぜか落ち着く。ジンギスカン、ザンギ、魚料理、海鮮と北海道で食べたいものがひと通り揃い、地酒も豊富で酒飲みの期待を裏切らない見事な布陣だ。夫婦共々すっかりお気に入りの店になっていた。
最後の夜はジンギスカンで締めようと思ったが、店はお盆休みだった。残念ではあるが、それほど驚きはない。地方の観光地では珍しくないからだ。去年の夏、稚内でも同じように夕食難民になり、たまたま開催されていた盆踊りの会場でビールとつまみを買い集めて夜を凌いだことがある。旅にはこうした予定外がつきものだ。だから今回は二の矢、三の矢まで調べてあった。
「さて、次へ行こう」と向かった先でも17時30分だというのにすでに客待ち。これもお盆の観光地ではよくある光景で、店が休み、次の店は満席、その次を探すという流れになる。旅先では予定通りにいかないことのほうが多いが、不思議とそれも後になれば旅の記憶として残る。そして今夜は無事にジンギスカンで腹を満たすことができた。
夕食では少し飲み足りなかったこともあり、夜食を兼ねてホテルのラウンジバーへ。
静かな夜のひととき、もう一杯だけグラスを傾けて、今日という一日をゆっくり締めくくることにする。
これで北海道の旅もひとつの区切りを迎えた。景色を走り、海を眺め、温泉に浸かり、北海道の食を味わった三泊四日の旅はほぼコンプリートである。あとは宿へ戻り、もう一度温泉に浸かって明日の帰路に備えるだけだ。明日は釧路を離れる。旅の終わりというものは始まった時よりも少しだけ静かで、今日まで見てきた景色を思い返しながら最後の夜の温泉に身を沈める。明日はまた日常へ戻る。
最後の見納め
ホテルの最上階(大浴場から)からの眺め
夜の情景
夕方の情景
では...





